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創作おとぎ話異譚メルヘン


まえがき

異譚メルヘンHäretiker- und KetzerMärchen / HKM)は、結社異譚語り魔法昔話風創作おとぎ話です。

いまでこそ童話と呼ばれ、小さな子ども向けのお話と見なされているメルヘンですが、かつては老若男女を問わずあらゆる人びとに愛され、広く語られていたものでした。まだ印刷技術がなかった時代、読書という習慣を持たない民衆にとって、口伝え物語りはかけがえのない楽しみであり、少なくとも数百年以上の長きにわたって、すたれることなく受け継がれてきたのです。

この民話としてのメルヘンには、ほかの物語り形式には見られない、めずらしい特徴がたくさんあります。たとえば動物が口をきいても、そのことについての驚きや恐れはまったく語られません(超越的感覚の欠如)。主人公を含め登場人物には個人名がなく、ただ『娘』や『若者』といった普通名詞で示され、具体的な人物像が詳述されることもありません(あるいは、日本の『太郎』や『花子』に相当する、ごくありふれた名前が用いられます)。服を着がえるだけで別人になって、もう家族でさえその正体がわからなくなる、ということだって普通に起こるのです(舞踏会でのシンデレラと姉たち、小人の家をたずねてきた王妃と白雪姫、など)。これらの特徴はメルヘンの様式を形作るものであり、この様式がメルヘンメルヘンとして成り立たせているのです。

ところが、本来のメルヘンである作者不詳の口伝えメルヘンVolks-märchenフォルクスメルヒェンの場合とは異なり、特定の作者がいる創作メルヘンKunst-märchenクンストメルヒェンでは、この様式はほとんど知られていないようなのです。そのことをとても不思議に思ったのが、異譚メルヘンという作品が生まれたきっかけでした。

なお、異譚メルヘンのそれぞれのお話は、原稿用紙数十枚程度で完結している短編です。ひとつひとつが独立した物語りとなっていますので、お好みの順番でお読みいただけます。

目次

異譚メルヘン第一話】一卵性兄妹

【HKM1】 Das eineiige Brüderchen und Schwesterchen

異端審問魔女の娘……を憎んで人を許さず/男の子でも女の子でもない双子……まだ何も知らないもうひとりの自分/求婚者との出会いとに染まったバージンロード……いつまでも子どものままではいられないという現実

原稿用紙36枚(文庫本で19ページ相当)

2008年11月24日初版公開

異譚メルヘン第二話】カエルのおじさま

【HKM2】 Der Froschonkel

ぼろを着せられこきつかわれた娘……養育され言うことを聞かなければならない子どもという立場/対価としての交友……それまで気がつかなかった自分の価値/どこまでもつきまとう汚名と道をはずれた証……一方的に押しつけられた若き日の過ちの後始末

原稿用紙41枚(文庫本で21ページ相当)

2008年11月24日初版公開

異譚メルヘン第三話】天国への道

【HKM3】 Der Weg zum Himmel

役立たずと呼ばれた娘……迷惑をかけるばかりの無価値な存在/神さまを訪ねる旅路……最後に残された唯一の希望とおせっかいな隣人たち/消えることのない烙印とそれゆえの排斥……大罪を犯した者への哀れみと恐れ

原稿用紙54枚(文庫本で29ページ相当)

2008年11月24日初版公開

異譚メルヘン第四話】呪いをかけられた王子さま

【HKM4】 Der verzauberte Prinz

美しい薔薇と素朴なハーブ……女同士ゆえのいごこちの良さと悪さ/花嫁に触れようとしない美しい花婿……魔女に呪われた草食系王子様/王冠を奪ったむさくるしい偽の花嫁……女でなくなってしまった姉たちのなれの果て

原稿用紙72枚(文庫本で37ページ相当)

2009年9月21日初版公開

著者結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新