■ まえがき
異譚メルヘン(Häretiker- und KetzerMärchen / HKM)は、結社異譚語りの魔法昔話風創作おとぎ話です。
いまでこそ童話と呼ばれ、小さな子ども向けのお話と見なされているメルヘンですが、かつては老若男女を問わずあらゆる人びとに愛され、広く語られていたものでした。まだ印刷技術がなかった時代、読書という習慣を持たない民衆にとって、口伝えの物語りはかけがえのない楽しみであり、少なくとも数百年以上の長きにわたって、すたれることなく受け継がれてきたのです。
この民話としてのメルヘンには、ほかの物語り形式には見られない、めずらしい特徴がたくさんあります。たとえば動物が口をきいても、そのことについての驚きや恐れはまったく語られません(超越的感覚の欠如)。主人公を含め登場人物には個人名がなく、ただ『娘』や『若者』といった普通名詞で示され、具体的な人物像が詳述されることもありません(あるいは、日本の『太郎』や『花子』に相当する、ごくありふれた名前が用いられます)。服を着がえるだけで別人になって、もう家族でさえその正体がわからなくなる、ということだって普通に起こるのです(舞踏会でのシンデレラと姉たち、小人の家をたずねてきた王妃と白雪姫、など)。これらの特徴はメルヘンの様式を形作るものであり、この様式がメルヘンをメルヘンとして成り立たせているのです。
ところが、本来のメルヘンである作者不詳の口伝えメルヘン(Volks-märchen [フォルクスメルヒェン])の場合とは異なり、特定の作者がいる創作メルヘン(Kunst-märchen [クンストメルヒェン])では、この様式はほとんど知られていないようなのです。そのことをとても不思議に思ったのが、異譚メルヘンという作品が生まれたきっかけでした。
なお、異譚メルヘンのそれぞれのお話は、原稿用紙数十枚程度で完結している短編です。ひとつひとつが独立した物語りとなっていますので、お好みの順番でお読みいただけます。
■ 目次
【異譚メルヘン第一話】一卵性兄妹
【HKM1】 Das eineiige Brüderchen und Schwesterchen
●異端審問と魔女の娘 罪を憎んで人を許さず/男の子でも女の子でもない双子 まだ何も知らないもうひとりの自分/求婚者との出会いと血に染まったバージンロード いつまでも子どものままではいられないという現実
●原稿用紙36枚(文庫本で19ページ相当)
2008年 | 11月 | 24日 | 初版公開 |
【異譚メルヘン第二話】カエルのおじさま
【HKM2】 Der Froschonkel
●ぼろを着せられこきつかわれた娘 養育され言うことを聞かなければならない子どもという立場/対価としての交友 それまで気がつかなかった自分の価値/どこまでもつきまとう汚名と道をはずれた証 一方的に押しつけられた若き日の過ちの後始末
●原稿用紙41枚(文庫本で21ページ相当)
2008年 | 11月 | 24日 | 初版公開 |
【異譚メルヘン第三話】天国への道
【HKM3】 Der Weg zum Himmel
●役立たずと呼ばれた娘 迷惑をかけるばかりの無価値な存在/神さまを訪ねる旅路 最後に残された唯一の希望とおせっかいな隣人たち/消えることのない烙印とそれゆえの排斥 大罪を犯した者への哀れみと恐れ
●原稿用紙54枚(文庫本で29ページ相当)
2008年 | 11月 | 24日 | 初版公開 |
【異譚メルヘン第四話】呪いをかけられた王子さま
【HKM4】 Der verzauberte Prinz
●美しい薔薇と素朴なハーブ 女同士ゆえのいごこちの良さと悪さ/花嫁に触れようとしない美しい花婿 魔女に呪われた草食系王子様/王冠を奪ったむさくるしい偽の花嫁 女でなくなってしまった姉たちのなれの果て
●原稿用紙72枚(文庫本で37ページ相当)
2009年 | 9月 | 21日 | 初版公開 |
著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |