◆ Note < 参考文献 > マックス・リュティ グリム童話
●創作おとぎ話『異譚メルヘン』を制作するうえで、参考にした資料はたくさんありますが、そのなかでも特に重要なものをあげておきます。
■ マックス・リュティ(リューティ)*
マックス・リュティ(Max Lüthi)は、文芸学の立場からメルヘン研究を行ったスイスの文学・歴史学者です(ここでいうメルヘンとは、民間口承文芸のなかのひとつのジャンルである口伝えメルヘンのことで、特定の作者がいる創作メルヘンは含まれません)。
その研究は、口伝えメルヘンを文学としてとらえ、そこにどういった特徴があるか分析するものです。そもそも『文学』という言葉が不似合いに感じられるほど、一見荒唐無稽で稚拙に思える口伝えメルヘンですが、実は明確な様式のもと、独自の表現をめざす物語り形式であるということが明かされています。反写実的に筋書きを叙述していくというめずらしいしい形態は、ほかのどんなジャンルにも見られない、きわめて稀有なものであると言えるでしょう。
また、メルヘンを研究する学問というと、一般に目にするのは精神分析学的なアプローチによるものが大半を占めている感がありますが、こと創作をする人間にとっては、文学的な視点での分析こそ基本であり、もっとも参考になるものではないかと思います(少なくとも、私たちにとってリュティの理論は不可欠なもので、これと出会わなければ『異譚メルヘン』というスタイルそのものが成りたたなかったでしょう)。
ただ惜しまれるのは、リュティの著作は古い本なので入手が困難なものが多いことです。図書館でリクエストすれば、所蔵していなくても取り寄せてもらえるかもしれませので、興味のあるかたにはお勧めしておきます。
*Lüthiのカタカナ表記が二通りあるのは「一般的なドイツ語では『リューティ』と発音するが、Lüthi自身は方言で『リュティ』と発音する」ということのようです。訳者によってどちらを用いるのか異なるため、パソコンで検索するときなどは注意が必要です。
『ヨーロッパの昔話』
マックス・リュティ(著)/小澤俊夫(訳)/民俗民芸双書37,岩崎美術社/1969年
●リュティの代表的な著作で、口伝えメルヘン(Volksmärchen)の様式論がこの一冊に集約されています。日本語訳されたなかではいちばん最初の本ですが、この時点ですでにリュティの理論は完成していると言ってもよいでしょう。
『昔話 その美学と人間像』
マックス・リュティ(著)/小澤俊夫(訳)/岩波書店/1985年
●リュティのメルヘン理論の第二部にあたるもので、さらに踏みこんだ分析がなされています。
『昔話の本質』
マックス・リューティ(著)/野村ひろし*(訳)/ちくま学芸文庫,筑摩書房/1994年
●話形別のメルヘン研究で、それぞれのタイプごとに豊富な類話をあげて解説がなされています。
*訳者名の『ひろし』は、さんずいに『玄』の字ですが、表記できないため仮名書きにしています(以下同じ)。
『昔話の解釈』
マックス・リューティ(著)/野村ひろし(訳)/ちくま学芸文庫,筑摩書房/1997年
●前掲書の続編で、やはり話形別のメルヘン研究書となっています。
■ グリム童話*
一般的には『グリム童話(集)』*と呼ばれていますが、原タイトルは『グリム兄弟の集めた子どもと家庭のメルヘン集』で、創作メルヘンではなく口伝えメルヘンを収集・編纂したものです。
*厳密に言えば、童話とメルヘンは違うものですが、すでに『グリム童話』という訳語が定着していますので、私たちも基本的にはそう呼ぶことにします。
グリム童話集は、当時民衆のあいだで語られていた口伝えメルヘンそのままの姿ではなく、実はグリム兄弟による加筆・修正がなされたものであるということが今日では知られていますが、私たちはそれでも、口伝えメルヘンのお手本としてこのメルヘン集を参考にしました。研究者ではない私たちにとって、容易に手に入るなかでは最良のテキストだと考えたからです。
兄弟による書きかえについては、いくつか研究書も出ていますし(たとえば、ジョン・M. エリス『一つよけいなおとぎ話』新曜社/1993年)、前掲のリュティ理論を念頭に置いて読めば、どこが口伝えメルヘン的でないか、見わけるのは難しくありません。また、問題の書きかえはごく部分的なもので、全体としてみればやはり口伝えメルヘンの特徴を強く留めていると言えるでしょう。このことは、ほかのメルヘン集(たとえば、バジーレやペロー)と比べても明らかです。また話数も豊富ですし、重訳や再話ではない完全な日本語訳が出ていることも、原テキストにできるだけ近いものを読むためには不可欠です。
『完訳グリム童話集』[全7巻]
ヤーコップ・グリム,ヴィルヘルム・グリム(著)/野村ひろし(訳)/ちくま文庫,筑摩書房/2005〜2006年
●グリム童話第七版の完訳で、201話のメルヘンと10話の聖者伝がすべて収められています。原文に忠実でありながら、日本語としても味わいのある良い翻訳だと思います。文庫本の体裁なので、安価でそろえられるのもうれしいところです。
『初版グリム童話集』[全4巻]
吉原高志,吉原素子(訳)/白水社/1997年
●グリム童話初版の全訳で、156話のメルヘンがすべて収められています。注釈や索引が充実しており、個々のメルヘンの収集経路やほかの版における掲載順、AT番号による分類が記されています。
『Kinder- und Hausmärchen
gesammelt durch die Brüder Grimm』[in drei Bänden]
Jacob Grimm, Wilhelm Grimm / insel taschenbuch 829, Insel Verlag, Germany / 1984
●グリム童話第七版の原文テキストです。
『Brüder Grimm
Kinder- und Hausmärchen
Die handschriftliche Urfassung von 1810』
Heinz Rölleke / Reclams Universal-Bibliothek Nr.18520, Philipp Reclam jun. GmbH & Co., Germany / 2007
●いわゆる『エーレンベルク稿』の原文テキストです。
著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |