pagetop

異譚メルヘン第三話天国への道


いけにえの子が生き返ってから千年を数えない時代のことですあるところにひとりではなにひとつ満足にできずいつも失敗ばかりしている娘がいましたそこでみんなこの娘のことを名まえではなく役立たずと呼んでいました役立たずはいちばん上のお姉さんでしたがいくつになってもいそがしい両親の助けにはなれず逆にその仕事を増やすことしかできませんでしたそのうち両親もあきらめてほんとうなら年長の子どもがやるはずの仕事を妹や弟たちにまかせるようになりましたそして役立たずにはいちばん簡単な手伝いだけさせておきそれはいくら下の子が増えようと変わることがありませんでした。

さてあるとき役立たずのお母さんにまた新しい子どもができたのでいつものように家へお手伝いさんを置くことになりましたこんどやってきたお手伝いさんはでいちばん美しい娘でしたこの人はいずれ役立たずのすぐ下の弟と結婚することになっていたのでしばらくいっしょに暮らせるときまってたいそうよろこんでいましたそれに家事がとても得意で毎日かいがいしく働いてくれたのでお母さんはすっかり安心して休んでいることができました。

ところで役立たずはと言えばあいかわらずあれこれと失敗ばかりしていましたいままで役立たずのめんどうを見ていたのはお母さんだったのでこんどからはお手伝いの娘がそのあとしまつをしてやらなければなりませんでしたそういうときも娘はいやな顔ひとつせずに言いました。気になさらないでお義姉さまあとはあたしがやりますから向こうへ行っていてくださいなでもこんどからはもう少し注意なさってね」けれども役立たずがいなくなると娘はひとりであとかたづけをしながらお義姉さまがあんなふうじゃこの家の人たちもたいへんねああなんだって神さまはあのような役立たずをおつくりになったのかしらとため息をつくのでした。

そうして暮らしているうちに役立たずの弟の誕生日がやってきましたお手伝いの娘はこの日をずっと楽しみにしていてとびきりのごちそうでおいわいしてあげるつもりでしたそのためにこれまでとぼしい食料庫の中身をじょうずにやりくりしどうにか必要な材料を残しておいたのですやがて家の人たちが畑へ出かけてしまうと娘はさっそく料理をはじめお昼までにはあらかたつくりあげてしまいましたけれどもそこへ正午の祈りの刻を告げる教会の鐘が聞こえてきたので娘はひとまず手をとめていそいでみんなのところへお弁当を届けに行かなければなりませんでした。

ところが台所に誰もいなくなるとおいしそうなにおいをかぎつけたネズミたちがごちそうの味見をしようと姿をあらわしましたちょうどそこへやってきた役立たずまねかれざるお客さまがたの顔を目にするや持っていたホウキを振りまわしてお引きとりを願いましたけれども最後の一匹を追いはらったひょうしにホウキがお皿に命中しごちそうをテーブルの上からはたき落としてしまいました。

やがて台所へ戻ってきた娘はそのありさまを見てとうとう泣きだしてしまいましたそしてあたしもう耐えられないわ神さまでもないかぎりお義姉さまのめんどうなんて見きれないのよと言うとそのまま荷物をまとめて自分の家へ帰ってしまいました。

それを聞いて役立たずたしかにあの子の言うとおりだと思いました。神さまのところだったらきっとどんなにだめな子がいても迷惑にはならないわいまから天国をたずねてそこに置いてもらえないか聞いてみることにしよう」そしてすぐにを出ると天国をめざしてどんどん歩いていきました。

やがて役立たず小高い丘の上へたどりつきましたすると向こうから年老いた醜い小人がやってきてごきげんようお嬢さんとあいさつをしました。

そこで役立たずありがとう小人さんでもあたしごきげんになんてなれっこないわと答えました。だって神さまがあたしをおつくりになったせいで家族がたいへんな思いをしなければならないんですもの」。

それでこれからどうするつもりだね」。

神さまをたずねてみもとに置いてもらえないか聞いてみるつもりよでも困ったわどうしたら天国へ行けるのかわからないの」。

それを聞いた小人なんだいそんなことも知らないのかねと笑いましたそして炎のように赤い色をしたパンを取りだすとだったらこの聖体パンをやろうこいつをみんなたいらげてあとはただ眠っているだけでいい目がさめたときにはちゃんと天国についてるだろうさと言いました。

役立たずがおおよろこびでお礼を言うと小人はパンを渡して去っていきましたそこで役立たずさっそくパンをたいらげると丘の上によこたわりましたところがしばらくすると食べたパンがおなかのなかで燃えはじめとても眠るどころではなくなってしまいました役立たずはパンをぜんぶ吐きだしましたがおなかの火事は収まりませんするとそこへ近くの川へ水くみに来ていたお百姓がとおりかかり持っていた桶の水を役立たずに飲ませましたやがて桶がからっぽになるとおなかがはちきれそうになった役立たずまた飲んだ水をすっかり吐きだしてしまいましたけれどもそれでようやく火事は収まり役立たずはふたたび起きあがれるようになりました。

わけを知ったお百姓こんなパンを食べたところで天国へはけっして行けないよいいかいもうこんなことをしてはだめだからねと言いましたそういうわけで役立たずまた天国へつづく道をさがして歩いていかなければなりませんでしたけれどもおなかのなかをすっかりやけどしてしまったせいでもうミルクのほかにはなにも口にすることができませんでした。

それから役立たず一本の大きな樫の木の下へたどりつきましたすると向こうから年老いた醜い小人がやってきてごきげんようお嬢さんとあいさつをしました。

そこで役立たずありがとう小人さんでもあたしごきげんになんてなれっこないわと答えました。だって神さまがあたしをおつくりになったせいで家族がたいへんな思いをしなければならないんですもの」。

それでこれからどうするつもりだね」。

神さまをたずねてみもとに置いてもらえないか聞いてみるつもりよでも困ったわどうしたら天国へ行けるのかわからないの」。

それを聞いた小人なんだいそんなことも知らないのかねと笑いましたそしてたくさんの赤い石がついているロザリオを取りだすとだったらこの数珠をやろうこれは昔ある綱屋が大切な娘の結婚式に持っていったものなんだがねこいつを首飾りみたいに首にかけてあとはただ眠っているだけでいい目がさめたときにはちゃんと天国についてるだろうさと言いました。

役立たずがおおよろこびでお礼を言うと小人ロザリオを渡して去っていきましたそこで役立たずさっそくロザリオを首にかけると樫の木の根もとによこたわりましたするとロザリオは宙に浮かびはじめ役立たずのからだを吊りあげて天国へとのぼっていきましたところがほどなく役立たずの足は樫の枝に引っかかりどうしてもはずれなくなってしまいましたそれでもロザリオはとまろうとしなかったので役立たずは首がもげそうになりとても眠るどころではありませんでしたするとそこへ鉄砲をかついだ狩人がとおりかかりねらいをつけてロザリオを撃ちました石をつなぎとめていたひもがちぎれるとロザリオはばらばらになって空へ飛んでいきましたが役立たずのからだは下に落ちようやくまた自由に動けるようになりました。

わけを知った狩人あんな数珠を首にかけたところで天国へはけっして行けないよいいかいもうこんなことをしてはだめだからねと言いましたそういうわけで役立たずまた天国へつづく道をさがして歩いていかなければなりませんでしたけれども首のまわりにはが巻きついたような醜いあとがついてしまいもう二度と消えることがありませんでした。

それから役立たず暗い森のそばへたどりつきましたすると向こうから年老いた醜い小人がやってきてごきげんようお嬢さんとあいさつをしました。

そこで役立たずありがとう小人さんでもあたしごきげんになんてなれっこないわと答えました。だって神さまがあたしをおつくりになったせいで家族がたいへんな思いをしなければならないんですもの」。

それでこれからどうするつもりだね」。

神さまをたずねてみもとに置いてもらえないか聞いてみるつもりよでも困ったわどうしたら天国へ行けるのかわからないの」。

それを聞いた小人なんだいそんなことも知らないのかねと笑いましたそして近くに建っていた赤い煙突のある小屋を指さすとだったら教えてやろうあの炭焼き小屋は煙突がつまってるんだがねなかへ入って窓と戸をしっかりしめたらかまどの炭に火をつけてあとはただ眠っているだけでいい目がさめたときにはちゃんと天国についてるだろうさと言いました。

役立たずはおおよろこびでお礼を言うと小人に別れを告げましたそしてさっそく小屋に入るとしっかりと戸じまりをして炭焼きをはじめましたすると小屋じゅうに煙がたちこめてあっというまになにも見えなくなりました役立たずは床によこたわりましたが息をするたびに煙を吸ってむせるのでとても眠るどころではありませんでしたするとそこへ斧をかついだ木こりがとおりかかり小屋の戸をこわしてなかへ入りましたそしてかまどに砂をかけたのでようやくあたりの煙が晴れ役立たずもまたむせずにすむようになりました。

わけを知った木こりこんな小屋で炭を焼いたところで天国へはけっして行けないよいいかいもうこんなことをしてはだめだからねと言いましたそういうわけで役立たずまた天国へつづく道をさがして歩いていかなければなりませんでしたけれどもあんまりたくさん煙を吸いこんだせいでもう口をひらいても醜くしわがれた声しか出てきませんでした。

それから役立たず澄んだ泉のほとりへたどりつきましたすると向こうから年老いた醜い小人がやってきてごきげんようお嬢さんとあいさつをしました。

そこで役立たずありがとう小人さんでもあたしごきげんになんてなれっこないわと答えました。だって神さまがあたしをおつくりになったせいで家族がたいへんな思いをしなければならないんですもの」。

それでこれからどうするつもりだね」。

神さまをたずねてみもとに置いてもらえないか聞いてみるつもりよでも困ったわどうしたら天国へ行けるのかわからないの」。

それを聞いた小人なんだいそんなことも知らないのかねと笑いましたそして銅でできた赤い杯を取りだすとだったらこの杯をやろうこれいっぱいに自分のを満たしたらあとはただ眠っているだけでいい目がさめたときにはちゃんと天国についてるだろうさと言いました。

役立たずがおおよろこびでお礼を言うと小人は杯を渡して去っていきましたそこで役立たずさっそくナイフで手首を切るとそのなかにをそそぎいれましたところがいくら待ってみても杯はちっともいっぱいにならずそれどころか入ってくるものをどんどん吸いこんでいるみたいでした役立たずはなんども深く切りなおしてさらにたくさんのを流してみましたがとうとう手首を切り落としてしまっても杯が満ちることはありませんでしたそのうち役立たずのからだはしびれはじめくずれるようにその場へよこたわりましたがひどく手足がふるえて少しもじっとしていないのでとても眠るどころではありませんでしたするとそこへお酒を売り歩いている商人がとおりかかり持っていた赤ワインを役立たずに飲ませましたやがてびんがすっかりからっぽになるとようやくからだのしびれが取れ役立たずはまた起きあがれるようになりました。

わけを知った商人はこんな杯にを満たしたところで天国へはけっして行けないよいいかいもうこんなことをしてはだめだからねと言いましたそういうわけで役立たずまた天国へつづく道をさがして歩いていかなければなりませんでしたけれども切り落とした手首はどこかへなくなってしまいもうもとには戻りませんでした。

それから役立たず切りたった崖の上へたどりつきましたすると向こうから年老いた醜い小人がやってきてごきげんようお嬢さんとあいさつをしました。

そこで役立たずありがとう小人さんでもあたしごきげんになんてなれっこないわと答えました。だって神さまがあたしをおつくりになったせいで家族がたいへんな思いをしなければならないんですもの」。

それでこれからどうするつもりだね」。

神さまをたずねてみもとに置いてもらえないか聞いてみるつもりよでも困ったわどうしたら天国へ行けるのかわからないの」。

それを聞いた小人なんだいそんなことも知らないのかねと笑いましたそして赤い土の色をした崖の下を指さすとだったら教えてやろうここからじゃ遠すぎて見えないがね天国はこの下にあるんだよもうひとつ足を踏みだしさえすればあとはただ眠っているだけでいい目がさめたときにはちゃんと天国についてるだろうさと言いました。

役立たずはおおよろこびでお礼を言うと小人に別れを告げましたそしてさっそく崖のふちに立つと言われたとおりに足を踏みだしましたすると役立たずのからだはまっさかさまに落ちていきましたが崖からはり出した岩にあちこちでぶつかるのでとても眠るどころではありませんでしたそうして落ちていくとやがて下のけしきが見えてきましたがただの地面のほかにはなにもありませんでした役立たずはあっというまにそこまでたどりつきはじけてばらばらになってしまいましたするとそこへ遍歴職人の仕立て屋がとおりかかりあちこちに散らばっている役立たずの切れはしを拾いあつめましたそして針と糸とで縫いあわせたので役立たずのからだはまたもとの姿に戻りました。

わけを知った仕立て屋はこんな崖の上から落ちたところで天国へはけっして行けないよいいかいもうこんなことをしてはだめだからねと言いましたそういうわけで役立たずまた天国へつづく道をさがして歩いていかなければなりませんでしたけれども仕立て屋がちょうど赤い糸しか持っていなかったので醜い縫いあとがからだじゅうに残ってしまいました。

それから役立たずけわしい雪山のふもとへたどりつきましたすると向こうから年老いた醜い小人がやってきてごきげんようお嬢さんとあいさつをしました。

そこで役立たずありがとう小人さんでもあたしごきげんになんてなれっこないわと答えました。だって神さまがあたしをおつくりになったせいで家族がたいへんな思いをしなければならないんですもの」。

それでこれからどうするつもりだね」。

神さまをたずねてみもとに置いてもらえないか聞いてみるつもりよでも困ったわどうしたら天国へ行けるのかわからないの」。

それを聞いた小人なんだいそんなことも知らないのかねと笑いましたそして赤い夕日がしずもうとしている山のいただきを指さすとだったら教えてやろうここからじゃ遠すぎて見えないがね天国はこの上にあるんだよもしのぼるのに疲れたらあとはただ眠っているだけでいい目がさめたときにはちゃんと天国についてるだろうさと言いました。

役立たずはおおよろこびでお礼を言うと小人に別れを告げましたそしてさっそく山道に入ると頂上をめざしてのぼりはじめましたところがしばらくするとあたりはすっかり雪にとざされどこが道だかわからなくなりましたそういうわけで役立たずはいつしかこおった湖の上へと迷いこみ雪の下に隠れていた氷の裂けめをそうとは知らずに踏み抜いてしまいましたまわりの氷がとてもあつかったので裂けめが広がることはありませんでしたが踏み抜いた片足はひざまでそのなかにはさまりどうやっても抜けなくなりましたやがて役立たずのからだはこごえはじめくずれるようにその場へよこたわりましたが固い氷がひどく足をしめつけるのでとても眠るどころではありませんでしたするとそこへ巡礼の旅人がとおりかかり役立たずを引っぱりあげて近くの山小屋へ運んでいきましたそして暖炉に火をおこしてあたためたので役立たずの手足はまた動くようになりましたけれども湖のなかにつかっていた片足だけはすっかりこおりついていて炎にかざそうと動かしたはずみにくだけてこなごなになってしまいました。

わけを知った旅人はこんな山をのぼったところで天国へはけっして行けないよいいかいもうこんなことをしてはだめだからねと言いましたそういうわけで役立たずまた天国へつづく道をさがして歩いていかなければなりませんでしたけれどもくだけてしまった片足はもうもとには戻りませんでした。

それから役立たず深い谷へたどりつきましたすると向こうから年老いた醜い小人がやってきてごきげんようお嬢さんとあいさつをしました。

そこで役立たずありがとう小人さんでもあたしごきげんになんてなれっこないわと答えました。だって神さまがあたしをおつくりになったせいで家族がたいへんな思いをしなければならないんですもの」。

それでこれからどうするつもりだね」。

神さまをたずねてみもとに置いてもらえないか聞いてみるつもりよでも困ったわどうしたら天国へ行けるのかわからないの」。

それを聞いた小人なんだいそんなことも知らないのかねと笑いました。だったら教えてやるがねなにもしなくていいんだよただ食べものも飲みものも口にしないだけであとは眠くなるまでじっと待てばいいしばらく時間はかかるかもしれんが目がさめたときにはちゃんと天国についてるだろうさ」。

役立たずよかったそれなら失敗のしようがないと考えておおよろこびでお礼をいいましたそして小人と別れると赤いコケにおおわれた洞窟の入り口をくぐり奥まで行って身をよこたえましたそうして長いこと待っているとついにまぶたが重くなり役立たずは深い眠りにつきましたところがずっとなにも口にしていなかったせいで寝ている役立たずのおなかはぐうぐうと大きな音で鳴っていましたするとそこへ仕事に向かうとちゅうの羊飼いがとおりかかりなんの音かと思って洞窟へ入ってきましたそして眠っている役立たずを見つけると連れていた羊のお乳をしぼってきてその口のなかへ流しこみました役立たずのおなかがいっぱいになって鳴りやむと羊飼いはまた自分の仕事へ戻っていきました。

やがて役立たずは目をさましましたがあたりがまっ暗なのでここはまだ天国じゃないらしいもうひと眠りしてみようと考えてもういちどまぶたが重くなるのをじっと待ちましたけれどもそれから役立たずが眠りに落ちるたびにおなかの鳴る音を聞きつけてあの羊飼いがお乳を飲ませに来るのでしたそういうわけで役立たずいつまでたっても天国へは行けずあいかわらず洞窟のなかでよこたわっているばかりでした。

そのうち役立たずとうとうしんぼうができなくなりましたそしてあたしはどこまでだめな子なんだろうこんな簡単なこともできないなんてと言うと神さまをたずねるのはあきらめてこのまま洞窟をあとにするよりほかありませんでしたけれどもあんまり長いあいだごつごつとした岩の上に寝ていたせいで背中や頭の皮がすっかりむけてしまい髪の毛も抜けて二度と生えてきませんでした。

それから役立たず大きな街へやってきましたそこであたりの家々をたずねてはどうかここに置いてくださいどんな仕事でもしますからと頼んでみたのですがどこにもやとってくれるところはありませんでしたその醜い首のあざやしわがれた声に気がつくや誰もが首を横に振り、

気のだけどうちには置いてやれないよどこかよそをさがしてごらんと答えるのですそれからわずかばかりのパンを手渡すと神さまがお守りくださいますようにと言って戸をしめてしまうのでした。

そうして街じゅうをまわり歩いているうちに役立たずはすっかりおなかがすいてしまいましたそこであちこちの救貧院をたずねてはどうかミルクをわけてくださいほんの少しでかまいませんからと頼んでみたのですがどこにもわけてくれるところはありませんでしたそのなくしてしまった片手やからだじゅうの醜い縫いあとに気がつくや誰もが首を横に振り、

気のだけどうちではわけてやれないよどこかよそをさがしてごらんと答えるのですそれから役立たずに向かって十字を切ると神さまがおゆるしくださいますようにと言って門をしめてしまうのでした。

そうして街じゅうをまわり歩いているうちにすっかり日が暮れて暗くなってしまいましたそこで役立たず街かどで施しをもらって暮らしている人たちを見つけてはもらったパンをふるまいながらどうかひと晩泊めてくださいどんなところでもかまいませんからと頼んでみたのですがどこにも泊めてくれるところはありませんでしたそのなくしてしまった片足や皮がむけた髪のない頭に気がつくや誰もが首を横に振り、

気のだけどうちには泊めてやれないよどこかよそをさがしてごらんと答えるのですそれからパンをふところへしまうと神さまの祝福がありますようにと言って足早に去っていってしまうのでしたそういうわけで役立たずこのまま街を出ていくよりほかありませんでした。

それから役立たず小高い丘の上へたどりつきましたそこには一軒の家が建っていて年老いた醜い魔女がひとりで住んでいました家の裏へまわってみると魔女いそがしいいそがしいとぶつくさ言いながら家畜の群れを追いたてているところでした。

それを見て役立たずどうかお手伝いさせてくださいと言いました。お願いですおばあさんあたしどこにも行くところがないんです食べるものと寝るところさえあったらほかにはなにもいりません」。

すると魔女そんなに言うなら働かせてやるけどねと言いました。ただしなまけたりしたらしょうちしないよそのときは豚にでも変えてやるから覚悟するんだね」。

こうして役立たず魔女の家で家畜番をすることになりましたもちろん役立たずのすることはあいかわらず失敗ばかりでしたがそれでも魔女は横から指図をするだけでけして手をかそうとはしませんでしたそしてどれだけ時間がかかろうと言いつけた仕事がすっかりかたづくまで役立たずをゆるしてやることはありませんでしたうっかり小屋の鍵をかけ忘れたせいで家畜たちがみんな逃げだしてしまったときもこのできの悪い家畜番はたったひとりで夜どおしあたりをさがしてまわらなければなりませんでした。

そうして暮らすうちに七年が過ぎましたその日の朝いつまでたっても魔女が出てこないので役立たずは部屋へ呼びに行きましたすると年老いた魔女まだベッドによこたわったままでしたそしてやってきた家畜番の顔を見るといままでよく言うことを聞いてしっかりと働いてくれたねだけどそれも今日でおわりだよと言いました。どうやらわたしはもう死ぬときが来たようだからね」。

それを聞いた役立たずはびっくりしてそんなのいやよおばあさんと叫びました。お願いだからあたしを置いていかないで」。

けれども魔女は首を横に振りこればっかりはわたしにもどうしようもないんだよと言いました。でもねちっとも心配することはないよおまえはもう家畜番なら誰よりじょうずにできるんだからねひとりでもちゃんとやっていけるよ」。

それでもおばあさんがいなかったらあたしどうしたらいいかわからないわ」。

それじゃこうしようもしどうしても困ったときはわたしの妹をたずねてごらんこの家の前の道をまっすぐ行ったところに住んでるからねさあほらそんなことよりもっと近くへ来なさいこれまでのお礼におまえにあげるものがあるんだからね」。

そう言って魔女が手を触れると役立たずのおなかのやけどはすっかりなおってまたなんでも食べられるようになりましたそれからこの人は目をとじて息を引きとりました役立たずは泣きながら魔女を埋めると家をあとにしてまっすぐ歩いていきました。

それから役立たず一本の大きな樫の木の下へたどりつきましたそこには一軒の家が建っていて年老いた醜い魔女がひとりで住んでいました窓のなかをのぞいてみると魔女いそがしいいそがしいとぶつくさ言いながら家じゅうをホウキで掃いているところでした。

それを見て役立たずどうかお手伝いさせてくださいと言いました。お願いですおばあさんあたしどこにも行くところがないんです食べるものと寝るところさえあったらほかにはなにもいりません」。

すると魔女そんなに言うなら働かせてやるけどねと言いました。ただしなまけたりしたらしょうちしないよそのときは雑巾にでも変えてやるから覚悟するんだね」。

こうして役立たず魔女の家で掃除係りをすることになりましたもちろん役立たずのすることはあいかわらず失敗ばかりでしたがそれでも魔女は横から指図をするだけでけして手をかそうとはしませんでしたそしてどれだけ時間がかかろうと言いつけた仕事がすっかりかたづくまで役立たずをゆるしてやることはありませんでした一日かけてぴかぴかにみがきあげた床の上へうっかり汚れた桶の水をぶちまけてしまったときもこのできの悪い掃除係りはたったひとりでまたはじめからきれいにしなおさなければなりませんでした。

そうして暮らすうちに七年が過ぎましたその日の朝いつまでたっても魔女が出てこないので役立たずは部屋へ呼びに行きましたすると年老いた魔女まだベッドによこたわったままでしたそしてやってきた掃除係りの顔を見るといままでよく言うことを聞いてしっかりと働いてくれたねだけどそれも今日でおわりだよと言いました。どうやらわたしはもう死ぬときが来たようだからね」。

それを聞いた役立たずはびっくりしてそんなのいやよおばあさんと叫びました。お願いだからあたしを置いていかないで」。

けれども魔女は首を横に振りこればっかりはわたしにもどうしようもないんだよと言いました。でもねちっとも心配することはないよおまえはもう掃除なら誰よりじょうずにできるんだからねひとりでもちゃんとやっていけるよ」。

それでもおばあさんがいなかったらあたしどうしたらいいかわからないわ」。

それじゃこうしようもしどうしても困ったときはわたしの妹をたずねてごらんこの家の前の道をまっすぐ行ったところに住んでるからねさあほらそんなことよりもっと近くへ来なさいこれまでのお礼におまえにあげるものがあるんだからね」。

そう言って魔女が手を触れると役立たずの首についていた醜いあざはすっかり消えてまたきれいな肌に戻りましたそれからこの人は目をとじて息を引きとりました役立たずは泣きながら魔女を埋めると家をあとにしてまっすぐ歩いていきました。

それから役立たず暗い森のそばへたどりつきましたそこには一軒の家が建っていて年老いた醜い魔女がひとりで住んでいました窓のなかをのぞいてみると魔女いそがしいいそがしいとぶつくさ言いながら山のような麻をつむいでいるところでした。

それを見て役立たずどうかお手伝いさせてくださいと言いました。お願いですおばあさんあたしどこにも行くところがないんです食べるものと寝るところさえあったらほかにはなにもいりません」。

すると魔女そんなに言うなら働かせてやるけどねと言いました。ただしなまけたりしたらしょうちしないよそのときは紡錘にでも変えてやるから覚悟するんだね」。

こうして役立たず魔女の家で糸つむぎをすることになりましたもちろん役立たずのすることはあいかわらず失敗ばかりでしたがそれでも魔女は横から指図をするだけでけして手をかそうとはしませんでしたそしてどれだけ時間がかかろうと言いつけた仕事がすっかりかたづくまで役立たずをゆるしてやることはありませんでした指の皮が裂けるまでつむぎつづけた糸をうっかりさわってだらけにしてしまったときもこのできの悪い糸つむぎはたったひとりでまた同じだけの麻をつむぎなおさなければなりませんでした。

そうして暮らすうちに七年が過ぎましたその日の朝いつまでたっても魔女が出てこないので役立たずは部屋へ呼びに行きましたすると年老いた魔女まだベッドによこたわったままでしたそしてやってきた糸つむぎの顔を見るといままでよく言うことを聞いてしっかりと働いてくれたねだけどそれも今日でおわりだよと言いました。どうやらわたしはもう死ぬときが来たようだからね」。

それを聞いた役立たずはびっくりしてそんなのいやよおばあさんと叫びました。お願いだからあたしを置いていかないで」。

けれども魔女は首を横に振りこればっかりはわたしにもどうしようもないんだよと言いました。でもねちっとも心配することはないよおまえはもう糸つむぎなら誰よりじょうずにできるんだからねひとりでもちゃんとやっていけるよ」。

それでもおばあさんがいなかったらあたしどうしたらいいかわからないわ」。

それじゃこうしようもしどうしても困ったときはわたしの妹をたずねてごらんこの家の前の道をまっすぐ行ったところに住んでるからねさあほらそんなことよりもっと近くへ来なさいこれまでのお礼におまえにあげるものがあるんだからね」。

そう言って魔女が手を触れると役立たずのしわがれたのどはすっかりなおってまたきれいな声が出せるようになりましたそれからこの人は目をとじて息を引きとりました役立たずは泣きながら魔女を埋めると家をあとにしてまっすぐ歩いていきました。

それから役立たず澄んだ泉のほとりへたどりつきましたそこには一軒の家が建っていて年老いた醜い魔女がひとりで住んでいました家の裏へまわってみると魔女いそがしいいそがしいとぶつくさ言いながら山のような洗濯物を干しているところでした。

それを見て役立たずどうかお手伝いさせてくださいと言いました。お願いですおばあさんあたしどこにも行くところがないんです食べるものと寝るところさえあったらほかにはなにもいりません」。

すると魔女そんなに言うなら働かせてやるけどねと言いました。ただしなまけたりしたらしょうちしないよそのときは物干しざおにでも変えてやるから覚悟するんだね」。

こうして役立たず魔女の家で洗濯係りをすることになりましたもちろん役立たずのすることはあいかわらず失敗ばかりでしたがそれでも魔女は横から指図をするだけでけして手をかそうとはしませんでしたそしてどれだけ時間がかかろうと言いつけた仕事がすっかりかたづくまで役立たずをゆるしてやることはありませんでしたしみひとつ残さずきれいにした洗濯ものを干したままうっかりいねむりをしていて雨と風に飛ばされてしまったときもこのできの悪い洗濯係りはたったひとりでついた泥を落としてまた洗いなおさなければなりませんでした。

そうして暮らすうちに七年が過ぎましたその日の朝いつまでたっても魔女が出てこないので役立たずは部屋へ呼びに行きましたすると年老いた魔女まだベッドによこたわったままでしたそしてやってきた洗濯係りの顔を見るといままでよく言うことを聞いてしっかりと働いてくれたねだけどそれも今日でおわりだよと言いました。どうやらわたしはもう死ぬときが来たようだからね」。

それを聞いた役立たずはびっくりしてそんなのいやよおばあさんと叫びました。お願いだからあたしを置いていかないで」。

けれども魔女は首を横に振りこればっかりはわたしにもどうしようもないんだよと言いました。でもねちっとも心配することはないよおまえはもう洗濯なら誰よりじょうずにできるんだからねひとりでもちゃんとやっていけるよ」。

それでもおばあさんがいなかったらあたしどうしたらいいかわからないわ」。

それじゃこうしようもしどうしても困ったときはわたしの妹をたずねてごらんこの家の前の道をまっすぐ行ったところに住んでるからねさあほらそんなことよりもっと近くへ来なさいこれまでのお礼におまえにあげるものがあるんだからね」。

そう言って魔女が手を触れると役立たずのなくした手首が生えてきてまたもとどおりになりましたそれからこの人は目をとじて息を引きとりました役立たずは泣きながら魔女を埋めると家をあとにしてまっすぐ歩いていきました。

それから役立たず切りたった崖の上へたどりつきましたそこには一軒の家が建っていて年老いた醜い魔女がひとりで住んでいました窓のなかをのぞいてみると魔女いそがしいいそがしいとぶつくさ言いながら山のような布を縫っているところでした。

それを見て役立たずどうかお手伝いさせてくださいと言いました。お願いですおばあさんあたしどこにも行くところがないんです食べるものと寝るところさえあったらほかにはなにもいりません」。

すると魔女そんなに言うなら働かせてやるけどねと言いました。ただしなまけたりしたらしょうちしないよそのときは待ち針にでも変えてやるから覚悟するんだね」。

こうして役立たず魔女の家でお針子をすることになりましたもちろん役立たずのすることはあいかわらず失敗ばかりでしたがそれでも魔女は横から指図をするだけでけして手をかそうとはしませんでしたそしてどれだけ時間がかかろうと言いつけた仕事がすっかりかたづくまで役立たずをゆるしてやることはありませんでしたドレスの胸もとにようやくしあげた刺しゅうの糸でうっかり背中側の布地まで縫いあわせてしまったときもこのできの悪いお針子はたったひとりでまた糸をほどいてはじめからやりなおさなければなりませんでした。

そうして暮らすうちに七年が過ぎましたその日の朝いつまでたっても魔女が出てこないので役立たずは部屋へ呼びに行きましたすると年老いた魔女まだベッドによこたわったままでしたそしてやってきたお針子の顔を見るといままでよく言うことを聞いてしっかりと働いてくれたねだけどそれも今日でおわりだよと言いました。どうやらわたしはもう死ぬときが来たようだからね」。

それを聞いた役立たずはびっくりしてそんなのいやよおばあさんと叫びました。お願いだからあたしを置いていかないで」。

けれども魔女は首を横に振りこればっかりはわたしにもどうしようもないんだよと言いました。でもねちっとも心配することはないよおまえはもう裁縫なら誰よりじょうずにできるんだからねひとりでもちゃんとやっていけるよ」。

それでもおばあさんがいなかったらあたしどうしたらいいかわからないわ」。

それじゃこうしようもしどうしても困ったときはわたしの妹をたずねてごらんこの家の前の道をまっすぐ行ったところに住んでるからねさあほらそんなことよりもっと近くへ来なさいこれまでのお礼におまえにあげるものがあるんだからね」。

そう言って魔女が手を触れると役立たずのからだについていた醜い縫いあとはすっかり消えてまたきれいな姿に戻りましたそれからこの人は目をとじて息を引きとりました役立たずは泣きながら魔女を埋めると家をあとにしてまっすぐ歩いていきました。

それから役立たずけわしい雪山のふもとへたどりつきましたそこには一軒の家が建っていて年老いた醜い魔女がひとりで住んでいました窓のなかをのぞいてみると魔女いそがしいいそがしいとぶつくさ言いながら山のようなパン生地をこねているところでした。

それを見て役立たずどうかお手伝いさせてくださいと言いました。お願いですおばあさんあたしどこにも行くところがないんです食べるものと寝るところさえあったらほかにはなにもいりません」。

すると魔女そんなに言うなら働かせてやるけどねと言いました。ただしなまけたりしたらしょうちしないよそのときはまな板にでも変えてやるから覚悟するんだね」。

こうして役立たず魔女の家で料理番をすることになりましたもちろん役立たずのすることはあいかわらず失敗ばかりでしたがそれでも魔女は横から指図をするだけでけして手をかそうとはしませんでしたそしてどれだけ時間がかかろうと言いつけた仕事がすっかりかたづくまで役立たずをゆるしてやることはありませんでした魔女たちのお茶会に出す焼き菓子をうっかりかまどに入れたままで黒こげにしてしまったときもこのできの悪い料理番はたったひとりでうるさがたのお客さんたちになじられながらあわててつくりなおさなければなりませんでした。

そうして暮らすうちに七年が過ぎましたその日の朝いつまでたっても魔女が出てこないので役立たずは部屋へ呼びに行きましたすると年老いた魔女まだベッドによこたわったままでしたそしてやってきた料理番の顔を見るといままでよく言うことを聞いてしっかりと働いてくれたねだけどそれも今日でおわりだよと言いました。どうやらわたしはもう死ぬときが来たようだからね」。

それを聞いた役立たずはびっくりしてそんなのいやよおばあさんと叫びました。お願いだからあたしを置いていかないで」。

けれども魔女は首を横に振りこればっかりはわたしにもどうしようもないんだよと言いました。でもねちっとも心配することはないよおまえはもう料理なら誰よりじょうずにできるんだからねひとりでもちゃんとやっていけるよ」。

それでもおばあさんがいなかったらあたしどうしたらいいかわからないわ」。

それじゃこうしようもしどうしても困ったときはわたしの妹をたずねてごらんこの家の前の道をまっすぐ行ったところに住んでるからねさあほらそんなことよりもっと近くへ来なさいこれまでのお礼におまえにあげるものがあるんだからね」。

そう言って魔女が手を触れると役立たずのなくした足が生えてきてまたもとどおりになりましたそれからこの人は目をとじて息を引きとりました役立たずは泣きながら魔女を埋めると家をあとにしてまっすぐ歩いていきました。

それから役立たず深い谷へたどりつきましたそこには一軒の家が建っていて年老いた醜い魔女おおぜいのみなしごといっしょに住んでいました窓のなかをのぞいてみると魔女いそがしいいそがしいとぶつくさ言いながらひとりで幼い子どもたちみんなの世話をしているところでした。

それを見て役立たずどうかお手伝いさせてくださいと言いました。お願いですおばあさんあたしどこにも行くところがないんです食べるものと寝るところさえあったらほかにはなにもいりません」。

すると魔女そんなに言うなら働かせてやるけどねと言いました。ただしなまけたりしたらしょうちしないよそのときはおしめにでも変えてやるから覚悟するんだね」。

こうして役立たず魔女の家で子守りをすることになりましたもちろん役立たずのすることはあいかわらず失敗ばかりでしたがそれでも魔女は横から指図をするだけでけして手をかそうとはしませんでしたそしてどれだけ時間がかかろうと言いつけた仕事がすっかりかたづくまで役立たずをゆるしてやることはありませんでしたうっかりきげんをそこねるたびに子どもたちはこのできの悪い子守りの言うことをちっとも聞かなくなりましたがいくら仲なおりをしようとためしてみても前と同じやりかたでは二度とうまくいかないのでした。

そうして暮らすうちに七年が過ぎ子どもたちもすっかり大きくなりましたその日の朝いつまでたっても魔女が出てこないので役立たずは部屋へ呼びに行きましたすると年老いた魔女まだベッドによこたわったままでしたそしてやってきた子守りの顔を見るといままでよく言うことを聞いてしっかりと働いてくれたねだけどそれも今日でおわりだよと言いました。どうやらわたしはもう死ぬときが来たようだからね」。

それを聞いた役立たずはびっくりしてそんなのいやよおばあさんと叫びました。お願いだからあたしを置いていかないで」。

けれども魔女は首を横に振りこればっかりはわたしにもどうしようもないんだよと言いました。でもねちっとも心配することはないよおまえはもう子守りなら誰よりじょうずにできるんだからねひとりでもちゃんとやっていけるよ」。

それでもおばあさんがいなかったらあたしどうしたらいいかわからないわ」。

それじゃこうしようわたしが死んだら子どもたちを連れて街へ行きなさいこの家の前の道をまっすぐ行ったところにあるからねそれからあの子たちが街で暮らせるように市長に会って頼むんだよこの鍵を持っていけばきっとうまくいくからねそのあとおまえがどうすればいいのかも行ってみればちゃんとわかるよでもねまずはその前にちょっとこっちへ来なさいこれまでのお礼におまえにあげるものがあるんだからね」。

そう言って魔女が手を触れると役立たずの背中や頭の皮がすっかりもとどおりになって長い髪もまた生えそろいましたそれからこの人は目をとじて息を引きとりました役立たずは泣きながら魔女を埋めると子どもたちと家を出てまっすぐに歩いていきました。

やがて役立たずたちは大きな街へたどりつきましたところがあんまりおおぜいの子どもがやってくるのを見てあやしんだ門番はなかへ入れてくれませんでしたちょうどそこへこの街の市長がとおりかかっていったいなんの騒ぎだねとたずねましたそこで役立たずは、

この子たちはみなしごでいままで育ててくれた人も死んでしまいましたどうかこの街に住まわせてやってくださいみんな心が清らかで天使のような子ばかりなんですと言いました。

すると市長はそれはお気のと言いました。しかしこれほどの数の子どもを受けいれるとなるとすぐにというわけにはいかないのだよまず市参事会に提議して問題がないか検討するきまりになっているたいへん残念だが今日のところはお引きとりを願いましょう」。

けれども役立たずはあきらめないで言いました。待ってください市長さんあなたに渡すものがあるんです」そして魔女からもらった鍵を取りだすとこの鍵でとざされている門をこの子たちのためにあけてやることはできないでしょうかとたずねました。

すると市長はおどろいてそれは私が母に贈ったものだと言いました。いったいなぜあなたが持っているのですか」。

そこで役立たずこれまであったことを残らず話して聞かせましたわけを知ると市長は役立たずの手を取ってなんとお礼を申せばよいのでしょうと言いました。それではあなたが私の母や伯母たちを看取ってくれたのですねわかりました子どもたちのことは私がなんとかしましょうどうぞこちらへおいでください」。

それから市長は門番に命じて役立たずたちをなかへとおさせると街でいちばん大きなお屋敷の前へと連れていきました。あなたが持ってきたのはこの屋敷の鍵なのですと市長は言いました。母のためにと用意したのですが気に入ってはもらえなかったようでいまも空き家のままになっていますよろしければ死んでしまった母のかわりにあなたがたでお使いくださいみんないっしょに住んだとしてもこれだけ広ければきゅうくつではないでしょう」。

こうして役立たず連れてきたみなしごたちとそこで暮らすことになりましたこの人はいまやどんなことでもじょうずにできるようになっていましたが子どもたちがみんなかわりにやってくれるのでもうなにもしなくてよいのでしたそしてまわりの人びとから大切にされながらなにひとつ不自由のない満ちたりた日々を送りそのあとの人生をお日さまの下で暮らす誰よりしあわせに過ごしたということですところでこの人が年を取って死んだあとほんとうに天国へ行けたかどうかは神さまだけがごぞんじです。


著者結社異譚語り
2008年11月30日ページ公開
2011年9月4日最終更新