pagetop

◆ 異譚メルヘン第三話 『天国への道』 ◆


それから役立たずは、澄んだ泉のほとりへたどりつきました。そこには一軒の家が建っていて、年老いた醜い魔女がひとりで住んでいました。家の裏へまわってみると、魔女は「いそがしい、いそがしい」とぶつくさ言いながら、山のような洗濯物を干しているところでした。

それを見て、役立たずは「どうかお手伝いさせてください」と言いました。「お願いです、おばあさん。あたし、どこにも行くところがないんです。食べるものと寝るところさえあったら、ほかにはなにもいりません」。

すると魔女は「そんなに言うなら働かせてやるけどね」と言いました。「ただし、なまけたりしたらしょうちしないよ。そのときは物干しざおにでも変えてやるから覚悟するんだね」。

こうして役立たずは、魔女の家で洗濯係りをすることになりました。もちろん、役立たずのすることはあいかわらず失敗ばかりでしたが、それでも魔女は横から指図をするだけで、けして手をかそうとはしませんでした。そしてどれだけ時間がかかろうと、言いつけた仕事がすっかりかたづくまで、役立たずをゆるしてやることはありませんでした。しみひとつ残さずきれいにした洗濯ものを、干したままうっかりいねむりをしていて雨と風に飛ばされてしまったときも、このできの悪い洗濯係りはたったひとりで、ついた泥を落としてまた洗いなおさなければなりませんでした。

そうして暮らすうちに七年が過ぎました。その日の朝、いつまでたっても魔女が出てこないので、役立たずは部屋へ呼びに行きました。すると年老いた魔女は、まだベッドによこたわったままでした。そして、やってきた洗濯係りの顔を見ると「いままでよく言うことを聞いて、しっかりと働いてくれたね。だけど、それも今日でおわりだよ」と言いました。「どうやら、わたしはもう死ぬときが来たようだからね」。

それを聞いた役立たずはびっくりして「そんなのいやよ、おばあさん」と叫びました。「お願いだから、あたしを置いていかないで」。

けれども、魔女は首を横に振り「こればっかりは、わたしにもどうしようもないんだよ」と言いました。「でもね、ちっとも心配することはないよ。おまえはもう、洗濯なら誰よりじょうずにできるんだからね。ひとりでもちゃんとやっていけるよ」。

「それでも、おばあさんがいなかったらあたし、どうしたらいいかわからないわ」。

「それじゃこうしよう。もしどうしても困ったときは、わたしの妹をたずねてごらん。この家の前の道を、まっすぐ行ったところに住んでるからね。さあほら、そんなことより、もっと近くへ来なさい。これまでのお礼に、おまえにあげるものがあるんだからね」。

そう言って魔女が手を触れると、役立たずのなくした手首が生えてきて、またもとどおりになりました。それから、この人は目をとじて息を引きとりました。役立たずは泣きながら魔女を埋めると、家をあとにしてまっすぐ歩いていきました。


著者:結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新