◆ Märchen << HKM2 < i ii iii iv v vi vii
そうするうちに、やがてお祭りの日がやってきました。教会の鐘が日没の祈りの刻を告げるころ、父親は娘を呼びつけて「私の帽子と、しまってあるいい服を持ってきて、それから靴をみがいてくれないか。そろそろお祭りに行く時間だからね」と言いました。そして身じたくがととのうと「おまえは留守番をしていなさい」と言い残し、ひとりで出かけてしまいました。けれども娘は、その姿が見えなくなるやいなや、すぐにドレスの隠し場所へと飛んでいきました。うす汚れたぼろを脱いでそでをとおしてみると、そのドレスはまるで娘のためにあつらえたようにぴったりで、とてもよく似合っていました。そこで娘はすっかりうれしくなって、いそいそとお祭りへ出かけていきました。
娘が広場に顔を見せると、そこにあつまっていた人たちはみんな、びっくりして道をあけました。誰もそれが、いつもみすぼらしいなりをしていた娘だとは気がつきませんでした。父親ももちろんそこにいたのですが、やっぱり自分の娘だと見わけることができず、あれはどこのお嬢さまだろうと思っていました。ドレスを身につけた娘は、それほどきれいだったのです。それにこの父親は、自分の娘は家にいて、ほこりまみれで働いているものとばかり考えていました。
さて、広場のまんなかではすでに、とびきりのおめかしをした若者や娘たちが、リュートの音にあわせてにぎやかに踊っているところでした。踊りの輪に入ることができるのは、まだ結婚していない人だけでした。そのなかには、このあたりを治めている若い伯爵の姿もあって、誰より軽やかにステップを踏んでいました。この人は、遅れて来た娘を目にするや、輪を抜けて迎えにやってきて、手を引いてみんなのところへ連れていきました。そしてもう、ほかの娘のことなんて見ようとしませんでした。
はじめてのお祭りの夜はとても楽しく、時間は飛ぶように過ぎていきました。けれども娘は、そうして踊っているあいだじゅうずっと、耳を澄ませておくのを忘れませんでした。なぜなら、向こうでお酒を飲んでいる大人たちは、宵の祈りの刻になると家へ帰ってしまうからです。そういうわけで、やがて教会の鐘が鳴りひびくと、娘はすぐに踊るのをやめて、するりとみんなのなかから抜けだしました。
それを見た伯爵は、あとを追いかけて引きとめようとしました。この美しい娘と、まだまだいっしょに踊っていたかったのです。ところが、娘は風のように走り去り、あっというまに姿を消してしまいました。そしていくらさがしても、どこへ行ったのかさっぱりわかりませんでした。伯爵はひどく残念に思って、もう広場へ戻る気にもならず、そのままお城に帰ってしまいました。
娘が家へ戻ると、父親もすぐに帰ってきました。ところがこの人は、いつもの汚い服で出迎えた娘を見て、いままでずっと家にいたものとしか思いませんでした。そして、いい服を脱いで娘にかたづけさせると、ベッドに倒れこんでさっさと寝入ってしまいました。
ところで、このお祭りは三日のあいだつづくことになっていました。次の朝になると、娘は別のドレスがほしくなって、家の仕事も手につかなくなりました。そこで娘は、父親のところへ行くと「きのうはあたし、寝る前のお祈りを忘れてしまったの。いまから教会へ行って、神父さまにざんげしてきてもいい?」とたずね、出かけることをゆるしてもらいました。けれども、それはうそでした。ほんとうはお祈りを忘れたりなんてしていなかったし、神父さまにざんげを聞いてもらうつもりもなかったのです。家をあとにした娘は、まっすぐに教会の前をとおり過ぎると、そのまま森へ入っていきました。小屋にいた醜いカエルは、仲よしの娘の声を耳にするや、すぐに飛んできて戸をあけました。そこで娘は、またカエルの言うとおりになってよろこばせてやりました。
こんどもらったドレスは、前よりいっそうすばらしいものでした。たとえ公爵家のお嬢さまでも、こんなに美しい服は持っていないことでしょう。娘はとてもよろこんで、カエルに別れを告げるといそいで村へ戻りました。それからドレスを隠して家に入ると、父親のしたくを手伝って送りだし、自分も着がえてお祭りに出かけていきました。
娘がやってきたときには、若い人たちはとっくにあつまって、輪になって踊りはじめていました。けれどもあの若い伯爵は、みんなのなかには入らずに、ただ近くで立っているだけでした。きのうの美しい娘といっしょでなければ、ちっとも踊る気になんてなれなかったのです。そして娘の姿を見つけると、すぐにそばへやってきて、手を取ってみんなのところへ連れていきました。
そうして楽しく踊っていると、やがて教会の鐘が鳴りわたり、宵の祈りの刻を告げました。娘はちゃんと耳を澄ませていて、いそいで踊りの輪を離れ、にぎやかな広場をあとにしました。伯爵はこんどこそ娘を引きとめようと思っていたのですが、やっぱり追いつくことができませんでした。そして、またすぐにその美しい後ろ姿を見うしなうと、肩を落としてひとりお城へ戻るよりほかありませんでした。
家についた娘は、すばやくもとのかっこうに戻ると、美しいドレスを隠してしまいました。そこで、帰ってきた父親はなにも気づきませんでした。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |