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異譚メルヘン第二話カエルのおじさま


次の日になると娘はまた新しいドレスがほしくなりましたそこでこんどは父親のところへ行くときのうはあたしお母さまの夢を見たのいまから教会へ行ってお墓まいりをしてきてもいい?とたずね出かけることをゆるしてもらいましたけれどもそれはうそでしたほんとうは夢を見たりなんてしていなかったしお墓をおとずれるつもりもなかったのです家をあとにした娘はまっすぐに教会の前をとおり過ぎるとそのままを出ていきましたそしてもういちどあの小屋をたずねるつもりでした。

ところがそうして森へ入ろうとすると向こうからひどく年老いたおばあさんがやってきて娘を引きとめて言いました。娘さんやこれから醜いカエルのところへ行くつもりだねでももうそんなことはやめなさい」。

娘がわけをたずねるとそのおばあさんはこう答えました。ものをもらうかわりに言うことを聞いてやるなんてそんなの友だちとは呼ばないんだよわかるかいおまえさんがしているのは人に言えないようなとても恥ずかしいことだだからもう二度とあのカエルには会わないと約束しておくれこんなことをしているとかならず後悔することになるんだからね」。

おばあさんがあんまり熱心にとめるので娘はわかったわおばあさんあたしもうカエルのとこへは行きませんと言いましたそしてきちんとお別れのあいさつをすると来た道を戻っていきましたけれどもそれはうそでしたほんとうは新しいドレスをあきらめたりなんてしていなかったし言われたことを聞くつもりもなかったのですそこで娘はわからないようにこっそり道をはずれると口うるさいおばあさんが行ってしまうまで近くの木のかげに隠れていましたやがてじゃまものがいなくなると娘はまた姿をあらわし森のなかへと入っていきましたあの醜いカエルかわいい友だちがたずねてくるのをずっと待っていてすぐに小屋へ入れてくれましたそこで娘はどんな頼みもいやがらずカエルの望みをみんなかなえてすっかり満足させてやりました。

この日カエルがくれたドレスいままでとはくらべものにならないほどすばらしいものでしたたとえ王家お姫さまでもこんなに美しい服は持っていないことでしょう娘はたいそうよろこんで醜いカエルにお礼のキスをしましたそして家へ飛んで帰るといつものように父親をさきに行かせドレスを身につけて広場へ向かいました。

広場にいた若い伯爵きれいに着飾った娘たちがどれほど誘ってもけしていっしょに踊ろうとはしませんでしたそしてあの美しい娘が来るのを待ちきれずにそこらじゅうをうろうろとさがしまわっていましたようやく娘があらわれると伯爵はすぐにかけつけてその手をにぎりみんなのところへ連れていきました。

音楽にあわせて楽しく踊りながら娘は鐘の音を聞きのがさないようきちんと気をつけていましたところが若い伯爵この娘が宵の祈りの刻になるときまって帰ってしまうことに気がついていましたそこで前もって教会の鐘つき男をたずね今夜は鐘を鳴らさないよう頼んでおいたのですそういうわけでやがて家へ戻らなければならない時間がやってきても娘にはそのことがわかりませんでしたそれにみんなと踊るのがあんまり楽しかったせいでそんなに長いあいだそこにいたとは思いもしませんでした。

そうして踊りつづけているととうとう世話役の大人たちがやってきてリュートの演奏をやめさせましたもう今年のお祭りはおしまいで若い人たちも広場から出ていかなければなりませんでした美しい娘はそのときになってはじめてすっかり踊り過ごしてしまったことに気がつきましたそしてあわてて父親の姿をさがしたのですがもういくら見まわしてもむだでした向こうでお酒を飲んでいた大人たちはとっくに帰ったあとだったのです。

そこで娘はこわくなりどうしたらいいのかわからずに泣きだしてしまいましたするとあの若い伯爵がやってきてやさしくなぐさめてわけをたずねました娘はあたしお父さまに黙って来てしまったのと答えました。こんな遅くに帰ったらきっとひどくぶたれてしまうわ」。

それを聞いた伯爵ならば私がいっしょに行って君のお父さんと話をしようだから心配はいらないよと言いましたそしてこの美しい娘を家まで送っていきました。

さきに帰っていた父親は夜おそくに戻った娘の顔を見てすっかり腹をたてて腕をつかみ家のなかへ引きずりこもうとしました二度とこんなことがないようにきつく叱ってやろうと思ったのですところがいっしょにいた伯爵が父親をとめてどうか娘さんのことを怒らないでくださいお父さんと言いました。悪いのはむりやり誘った私なんですから」。

そう言われた父親はわけがわからずに伯爵さまそれはいったいどういうことなんでしょうとたずねました。どうしてまたうちの娘なんぞを」。

すると伯爵は答えて言いました。私は娘さんのことを愛していますもしこの人と結婚できなければきっとこのまま死んでしまうことでしょう」。

父親はすっかりおどろいてなんと言ったらよいのかわかりませんでしたけれども伯爵父親が申し出を受けるまでどうしてもあきらめようとしませんでしたそこでとうとうこの父親も娘の結婚を認めるよりほかありませんでした。


著者結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新