◆ Märchen << HKM2 < i ii iii iv v vi vii
次の日になると、娘はまた新しいドレスがほしくなりました。そこでこんどは、父親のところへ行くと「きのうはあたし、お母さまの夢を見たの。いまから教会へ行って、お墓まいりをしてきてもいい?」とたずね、出かけることをゆるしてもらいました。けれども、それはうそでした。ほんとうは夢を見たりなんてしていなかったし、お墓をおとずれるつもりもなかったのです。家をあとにした娘は、まっすぐに教会の前をとおり過ぎると、そのまま村を出ていきました。そしてもういちど、あの小屋をたずねるつもりでした。
ところが、そうして森へ入ろうとすると、向こうからひどく年老いたおばあさんがやってきて、娘を引きとめて言いました。「娘さんや、これから醜いカエルのところへ行くつもりだね。でも、もうそんなことはやめなさい」。
娘がわけをたずねると、そのおばあさんはこう答えました。「ものをもらうかわりに言うことを聞いてやるなんて、そんなの友だちとは呼ばないんだよ。わかるかい、おまえさんがしているのは、人に言えないようなとても恥ずかしいことだ。だからもう、二度とあのカエルには会わないと約束しておくれ。こんなことをしていると、かならず後悔することになるんだからね」。
おばあさんがあんまり熱心にとめるので、娘は「わかったわ、おばあさん。あたし、もうカエルのとこへは行きません」と言いました。そしてきちんとお別れのあいさつをすると、来た道を戻っていきました。けれども、それはうそでした。ほんとうは新しいドレスをあきらめたりなんてしていなかったし、言われたことを聞くつもりもなかったのです。そこで娘は、わからないようにこっそり道をはずれると、口うるさいおばあさんが行ってしまうまで、近くの木のかげに隠れていました。やがてじゃまものがいなくなると、娘はまた姿をあらわし、森のなかへと入っていきました。あの醜いカエルは、かわいい友だちがたずねてくるのをずっと待っていて、すぐに小屋へ入れてくれました。そこで娘は、どんな頼みもいやがらず、カエルの望みをみんなかなえて、すっかり満足させてやりました。
この日カエルがくれたドレスは、いままでとはくらべものにならないほどすばらしいものでした。たとえ王家のお姫さまでも、こんなに美しい服は持っていないことでしょう。娘はたいそうよろこんで、醜いカエルにお礼のキスをしました。そして家へ飛んで帰ると、いつものように父親をさきに行かせ、ドレスを身につけて広場へ向かいました。
広場にいた若い伯爵は、きれいに着飾った娘たちがどれほど誘っても、けしていっしょに踊ろうとはしませんでした。そして、あの美しい娘が来るのを待ちきれずに、そこらじゅうをうろうろとさがしまわっていました。ようやく娘があらわれると、伯爵はすぐにかけつけてその手をにぎり、みんなのところへ連れていきました。
音楽にあわせて楽しく踊りながら、娘は鐘の音を聞きのがさないよう、きちんと気をつけていました。ところが若い伯爵は、この娘が宵の祈りの刻になると、きまって帰ってしまうことに気がついていました。そこで、前もって教会の鐘つき男をたずね、今夜は鐘を鳴らさないよう頼んでおいたのです。そういうわけで、やがて家へ戻らなければならない時間がやってきても、娘にはそのことがわかりませんでした。それに、みんなと踊るのがあんまり楽しかったせいで、そんなに長いあいだそこにいたとは思いもしませんでした。
そうして踊りつづけていると、とうとう世話役の大人たちがやってきて、リュートの演奏をやめさせました。もう今年のお祭りはおしまいで、若い人たちも広場から出ていかなければなりませんでした。美しい娘は、そのときになってはじめて、すっかり踊り過ごしてしまったことに気がつきました。そしてあわてて父親の姿をさがしたのですが、もういくら見まわしてもむだでした。向こうでお酒を飲んでいた大人たちは、とっくに帰ったあとだったのです。
そこで娘はこわくなり、どうしたらいいのかわからずに泣きだしてしまいました。するとあの若い伯爵がやってきて、やさしくなぐさめてわけをたずねました。娘は「あたし、お父さまに黙って来てしまったの」と答えました。「こんな遅くに帰ったら、きっとひどくぶたれてしまうわ」。
それを聞いた伯爵は「ならば私がいっしょに行って、君のお父さんと話をしよう。だから心配はいらないよ」と言いました。そして、この美しい娘を家まで送っていきました。
さきに帰っていた父親は、夜おそくに戻った娘の顔を見て、すっかり腹をたてて腕をつかみ、家のなかへ引きずりこもうとしました。二度とこんなことがないように、きつく叱ってやろうと思ったのです。ところが、いっしょにいた伯爵が父親をとめて「どうか娘さんのことを怒らないでください、お父さん」と言いました。「悪いのは、むりやり誘った私なんですから」。
そう言われた父親は、わけがわからずに「伯爵さま、それはいったいどういうことなんでしょう」とたずねました。「どうしてまた、うちの娘なんぞを」。
すると、伯爵は答えて言いました。「私は娘さんのことを愛しています。もしこの人と結婚できなければ、きっとこのまま死んでしまうことでしょう」。
父親はすっかりおどろいて、なんと言ったらよいのかわかりませんでした。けれども伯爵は、父親が申し出を受けるまで、どうしてもあきらめようとしませんでした。そこでとうとうこの父親も、娘の結婚を認めるよりほかありませんでした。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |