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異譚メルヘン第二話カエルのおじさま


次の朝若い伯爵は娘を迎えにやってきてお城へ連れていきましたそこではもうすっかり結婚式の用意ができていてあとはふたりが来るのを待つばかりとなっていましたやがて花嫁があらわれると誰もがその美しさに見とれてため息をつきました。

ところで伯爵にはとても仲のよい双子の弟がいて困ったときには助けあおうと固く約束を交わしていましたお城がひとつしかなかったのでこの人はもうずいぶん昔に旅へ出てしまいましたが門の前で別れるときに兄弟はかたわらの木にぴかぴかのナイフを刺しておきましたそれからというもの伯爵が病気のときにはこのナイフの上側の刃がくもり元気になればナイフもかがやきを取り戻しました下側の刃はいつもぴかぴかに光っていたので伯爵はその前をとおるたびに弟が無事でいるとわかって安心するのでした。

けれども花嫁を連れて戻ってみるとナイフの下側は半分までさびて刃がぼろぼろになっていましたそれを見た兄は弟の身の上に大きな災難が降りかかったにちがいないでももしかすると助けることができるかもしれないぞナイフの残り半分はまだぴかぴかに光っているんだからと考えていそいでさがしに行こうときめましたそしていとしい娘にわけを告げるとをわけた弟を見捨てるような男が君にふさわしいとは思えないだけどちっとも心配はいらないよあっというまに用事をすませてすぐに戻ってくるからねと言いました。なぜって私は魔法の馬を持っているんだその馬は風より速く走れるしいざというときは身がわりになって主人である私を守ってくれるんだよ」。

それから伯爵召使いたちに私が戻るまでのあいだ花嫁になにひとつ不自由な思いをさせないようにと言いつけましたそして剣を帯びると魔法の馬の背にまたがりまたたくまに城門から飛びだしていきました。

矢のように国じゅうをかけまわった伯爵すぐに弟のゆくえをつきとめました勇敢な弟は人びとを苦しめているを退治しに東の果ての国へ向かったというのですそこで伯爵も馬を駆りななつの高い山をこえてのすみかへとやってきましたうす暗い洞窟のまわりには人のかたちをした石の像がたくさんころがっていてそのなかには弟の姿もありましたそれを見た伯爵は馬をおり剣を抜いて洞窟へと入っていきましたやがていちばん奥まで来るとそこではがとぐろを巻いていびきをかきながら眠っていましたところが伯爵が足音をしのばせてそっと近づこうとしたとたんは大きなくしゃみをして人くさい人の肉のにおいがするぞと言いましたそして首をもたげて目を見ひらくと呪いのまなざしで伯爵をにらみつけました。

けれども伯爵が弟と同じ姿になることはありませんでしたただそとで待っていた馬が石に変わっただけだったのですそこでこんどは口をひらいて炎を浴びせかけたのですがやっぱり効きめはありませんでしたそしてもう伯爵の剣で首を落とされるよりほかありませんでした。

が死ぬと石にされていた人たちはみんな生き返りました伯爵の弟もまた元気になって兄と抱きあい再会をよろこびましたそれからふたりはまた別れて弟はそのまま旅をつづけ兄は花嫁の待つお城へといそぎましたけれども帰り道では伯爵はふつうの馬に乗らなければなりませんでした主人の身がわりとなった魔法の馬まっ赤に焼けてこなごなになってしまっていたからです。

さてそのころ娘はといえばお城ですばらしい暮らしをしていましたもう掃除も洗濯もする必要はなく自分で料理をしなくても食べたいものが好きなだけテーブルに並べられるのです伯爵はなかなか帰ってきませんでしたがさびていたナイフの刃がもとどおりになって上も下もぴかぴかにかがやいていたので弟ともども無事でいることがわかりましたそこで娘はすっかり安心して毎日を楽しく過ごしていましたそうして暮らしているうちに娘のおなかはだんだん大きくなってやがてあの美しいドレスも着られなくなってしまいました。

季節が変わりさらにまた別の季節がおとずれたころ若い伯爵はようやく自分のお城へたどりつきました城門をくぐった伯爵まっさきにいとしい花嫁のもとへとかけつけたのですがその姿をひと目見たとたん結婚する気をすっかりなくしてしまいましたそして娘をお城から追いだすと二度となかへ入れてくれませんでした。

こうして娘は父親が暮らすもとの家へと帰っていきましたところがこの父親は戻ってきた娘の姿を目にするとおまえはもううちの子じゃないどこなりと好きなところへ行ってしまえと言って家の戸をしめてかんぬきをおろしてしまいましたそしていくら呼んでも二度と顔を見せようとはしませんでした。

そこで娘はまたあの古い友だちに助けてもらおうと考えて森のなかへと入っていきましたところがあのときの小屋はかげもかたちもなくなっていてどこをさがしても見つかりませんでしたそして娘は二度と醜いカエルに会うことがありませんでした。


著者結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新