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異譚メルヘン第二話カエルのおじさま


そういうわけで娘は生まれ育ったを出ていくよりほかありませんでしたそしてあちこち歩きまわるうちにやがて別のへとやってきましたそこにはりっぱなお屋敷があってたいそうお金持ちの男爵ひとりで暮らしているのでしたこの人は見かけない娘がおもてをとおりかかるところを目にすると呼びとめてたずねました。君は誰かねそんなからだでどこへ行こうというんだい?」

そこで娘はわたしは花婿から見捨てられたあわれな花嫁ですどこにも行くところがありませんと答えましたすると男爵は、

そういうことならよければうちで働きなさいと言いました。けっして悪いようにはしないから」。

こうして娘はそのお屋敷で暮らすことになりました家事仕事ならなんでもじょうずにできたのでほどなく娘は男爵にすっかり気に入られてしまいましたこの人はとても親切で娘の負担になるような仕事はけしてさせませんでした夜になると娘は男爵の長靴を脱がせなければなりませんでしたがそれを頭に投げつけられるようなこともありませんでした。

そうするうちに月が満ちお屋敷にお産婆さんが呼ばれてきました娘はたいそう気づかわれいちばんいい部屋とベッドを使わせてもらえました男爵があんまり心配しているのでお産婆さんはこの娘のことを奥さまだとばかり思っていたほどでした。

ところがそうして生まれてきたのはひとかかえもあるような大きなおたまじゃくしでしたそのことを知った男爵すっかり娘に愛想をつかしてさっさとひまをやってしまいましたそういうわけで娘は歩けるようになるとすぐおたまじゃくしの入った桶をかかえてお屋敷を出ていかなければなりませんでした。

ところでこのおたまじゃくしは娘がお乳をやるたびにみるみる大きくなっていきましたやがて桶に収まりきらなくなるともうそれよりさきへはいっしょに連れていけませんでしたそこで娘は近くの池にこの子を放すよりほかありませんでした。

それから娘はまた別のへとやってきましたそこにはにぎやかな家があってたいそう信心深い騎士親のないおおぜいの子どもたちと暮らしているのでしたこの人は見かけない娘がおもてをとおりかかるところを目にすると呼びとめてたずねました。君は誰かねこんな時間にどこへ行こうというんだい?」

そこで娘はわたしは父親から見捨てられたあわれな子どもですどこにも行くところがありませんと答えましたすると騎士は、

そういうことならよければここで暮らしなさいと言いました。この家は困っている子どもをけっしてこばんだりはしないから」。

こうして娘は騎士の家で暮らすことになりましたそこにはたくさんのかわいそうな子どもたちが住んでいて助けあって毎日を過ごしていました娘はいちばんお姉さんでなんでもよく知っていたのでほどなくほかのみんなからすっかり頼りにされるようになりました。

ところがある朝娘たちが食事のしたくをしているとおもてでぺちゃぴちゃぺちゃぴちゃという音がして誰かが勝手口の戸をたたきました手伝いをしていた子どものひとりが走っていって戸をあけてみるとそこにいたのは醜い大きなカエルでしたカエルはゲコゲコと鳴きながら家のなかに飛びこむと母親のところへ跳ねてきて前掛けにしがみついて離れなくなりました。

子どもたちがひどくこわがるので娘はそのカエルをそとへ追いだそうとしたのですがいくら振りはらってみてもむだでしたカエルはしっかりと前掛けをつかんだままけして放そうとしなかったのです騒ぎを聞きつけてやってきた騎士にもこればかりはどうすることもできませんでしたそこでとうとう娘はこのカエルを連れて家を出ていかなければなりませんでした。


著者結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新