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そういうわけで娘は、生まれ育った村を出ていくよりほかありませんでした。そしてあちこち歩きまわるうちに、やがて別の村へとやってきました。そこにはりっぱなお屋敷があって、たいそうお金持ちの男爵が、ひとりで暮らしているのでした。この人は、見かけない娘がおもてをとおりかかるところを目にすると、呼びとめてたずねました。「君は誰かね。そんなからだで、どこへ行こうというんだい?」
そこで娘は「わたしは花婿から見捨てられたあわれな花嫁です。どこにも行くところがありません」と答えました。すると男爵は、
「そういうことなら、よければうちで働きなさい」と言いました。「けっして悪いようにはしないから」。
こうして娘は、そのお屋敷で暮らすことになりました。家事仕事ならなんでもじょうずにできたので、ほどなく娘は、男爵にすっかり気に入られてしまいました。この人はとても親切で、娘の負担になるような仕事はけしてさせませんでした。夜になると、娘は男爵の長靴を脱がせなければなりませんでしたが、それを頭に投げつけられるようなこともありませんでした。
そうするうちに月が満ち、お屋敷にお産婆さんが呼ばれてきました。娘はたいそう気づかわれ、いちばんいい部屋とベッドを使わせてもらえました。男爵があんまり心配しているので、お産婆さんはこの娘のことを奥さまだとばかり思っていたほどでした。
ところが、そうして生まれてきたのは、ひとかかえもあるような大きなおたまじゃくしでした。そのことを知った男爵は、すっかり娘に愛想をつかして、さっさとひまをやってしまいました。そういうわけで娘は、歩けるようになるとすぐ、おたまじゃくしの入った桶をかかえてお屋敷を出ていかなければなりませんでした。
ところでこのおたまじゃくしは、娘がお乳をやるたびに、みるみる大きくなっていきました。やがて桶に収まりきらなくなると、もうそれよりさきへはいっしょに連れていけませんでした。そこで娘は、近くの池にこの子を放すよりほかありませんでした。
それから娘は、また別の村へとやってきました。そこにはにぎやかな家があって、たいそう信心深い騎士が、親のないおおぜいの子どもたちと暮らしているのでした。この人は、見かけない娘がおもてをとおりかかるところを目にすると、呼びとめてたずねました。「君は誰かね。こんな時間に、どこへ行こうというんだい?」
そこで娘は「わたしは父親から見捨てられたあわれな子どもです。どこにも行くところがありません」と答えました。すると騎士は、
「そういうことなら、よければここで暮らしなさい」と言いました。「この家は、困っている子どもをけっしてこばんだりはしないから」。
こうして娘は、騎士の家で暮らすことになりました。そこにはたくさんのかわいそうな子どもたちが住んでいて、助けあって毎日を過ごしていました。娘はいちばんお姉さんで、なんでもよく知っていたので、ほどなくほかのみんなから、すっかり頼りにされるようになりました。
ところがある朝、娘たちが食事のしたくをしていると、おもてでぺちゃ、ぴちゃ、ぺちゃ、ぴちゃ、という音がして、誰かが勝手口の戸をたたきました。手伝いをしていた子どものひとりが、走っていって戸をあけてみると、そこにいたのは醜い大きなカエルでした。カエルはゲコゲコと鳴きながら家のなかに飛びこむと、母親のところへ跳ねてきて、前掛けにしがみついて離れなくなりました。
子どもたちがひどくこわがるので、娘はそのカエルをそとへ追いだそうとしたのですが、いくら振りはらってみてもむだでした。カエルはしっかりと前掛けをつかんだまま、けして放そうとしなかったのです。騒ぎを聞きつけてやってきた騎士にも、こればかりはどうすることもできませんでした。そこでとうとう娘は、このカエルを連れて家を出ていかなければなりませんでした。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |