◆ Märchen << HKM2 < i ii iii iv v vi vii
それからというもの、娘はどこへ行っても気味悪がられ、誰からも避けられるようになりました。醜いカエルをひと目見るや、家にこの親子を置いてやろうとする人はいなくなりました。そうして長いことさまよいつづけているうちに、娘はやがて疲れはて、もうそこからさきへは歩けなくなってしまいました。
ところでそれは、広い畑を持っている裕福なお百姓の家の前でした。この家のあるじは、見かけない娘がおもてでうずくまっているのを目にすると、呼びよせてたずねました。「君は誰かね。そこでいったいなにをしている?」
そこで娘は「わたしは友だちから見捨てられたあわれな娘です。どこにも行くところがありません」と答えました。するとあるじは、
「そういうことなら、ここで働かせてやろう」と言いました。「うちにはあんまり人がたりなくて、カエルの手でも借りたいほどなんだよ」。
こうして娘は、そのお百姓のもとで働くことになりました。けれども、前掛けにしがみついたカエルがうるさく鳴いてばかりいるので、この親子は家畜小屋で寝起きしなければならず、食事もほかの人たちといっしょには取れませんでした。そればかりか、家の人たちはみんな娘が気に入らず、いやな仕事はなんでも押しつけて、そのうえひどいいじわるをするのでした。そういうわけでこの娘は、いつもひとりぼっちで、だれも望まないような仕事ばかりしていなければなりませんでした。
そうして暮らすうちにいつしか、父親のもとにいたときよりも長い月日が過ぎ去りました。カエルはすっかり大きくなりましたが、あいかわらず母親の前掛けにしがみついているばかりで、自分ではなにもしようとしませんでした。そしていつになっても言葉をおぼえず、ただゲコゲコと鳴くことしかできませんでした。けれども、食べることだけはすっかりいちにんまえで、母親と食事をわけあうだけではたりませんでした。そこで母親は、仕事のあいまに森へ行って、いちごや木の実を拾ってこなければなりませんでした。そういうときもこの息子は知らん顔で、食べものさがしを手伝ったりせず、近くの泉へ跳ねていってひとりで遊んでいるのでした。
そんなある日のことです。いつものように母親が森で木の実をあつめていると、若い娘がひとり、楽しそうに歌いながら近くをとおりかかりました。その娘はひどくみすぼらしいなりをしていたのですが、腕のなかにはとてもきれいな、伯爵家のお嬢さまでさえ持っていないほどすばらしいドレスをかかえているのでした。それでこのかわいそうな母親は昔を思いだし、しまってある自分のドレスを見たくなりました。ところが小屋へ戻ってみると、あの大切なドレスは一着なくなっていて、どこをさがしても見あたりませんでした。やがて息子が帰ってくると、母親はドレスのことをたずねてみたのですが、この子はあいかわらずゲコゲコと鳴くばかりで、なにも答えはしませんでした。
次の日、また母親が食べものをさがしていると、あのみすぼらしい娘が、別のドレスをかかえてとおりかかりました。それは公爵家のお嬢さまでも持っていないほど美しいドレスで、娘はあっというまに走り去っていきました。母親が小屋へ戻って見てみると、自分のドレスはもう一着しか残っておらず、あとは消えていました。そして帰ってきた息子にたずねても、そのゆくえはわかりませんでした。
そこで母親は、次の朝は早くから森へ出かけていきました。そしてあの娘がやってくると、呼びとめて言いました。「あなた、醜いカエルのところへ行くつもりね。でも、もうそんなことはやめなさい」。
娘がわけをたずねるので、母親はこう答えました。「ものをもらうかわりに言うことを聞いてやるなんて、そんなの友だちとは呼ばないのよ。いい、あなたがしているのは、人に言えないようなとても恥ずかしいことだわ。だからもう、二度とあのカエルには会わないと約束してちょうだい。こんなことをしていると、かならず後悔することになるんだから」。
ところがこの娘は、そんな母親をうるさがって「そんなの、あたしの勝手でしょう? おばあさんには関係ないじゃない」と言いました。そして「ドレスはいまだから必要なの。年を取ってから手に入れたって遅いのよ」と言い残すと、さっさとどこかへ行ってしまいました。
こうしてひとり残された母親は、みじめに帰っていくよりほかありませんでした。衣装箱はすっかりからになっていて、大切にしていたドレスはあとかたもありませんでした。やがてカエルが戻ってくると、母親は言いました。「たとえもう着られないとしても、あたしはあのドレスのために、いままでさんざんつらい思いをしてきたのよ。それをおまえはどこへやってしまったの? いいかげんにちゃんと答えなさい、しゃべれることはわかってるんだからね」。ところが、それでもこのカエルはいつものようにゲコゲコと鳴くばかりで、なにを言っているのかわかりませんでした。そこで母親はすっかり頭にきて、壁にかかっていた包丁をつかむと、カエルのおなかをちからいっぱい刺してしまいました。
ところが、醜いカエルの皮がふたつに裂けると、そのなかから母親にそっくりの、とても美しい若者が姿をあらわしたのでした。この若者は、母親を抱きしめると言いました。「ようやく呪いが解けました。もう二度と、つらい思いはさせません」。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |