◆ Märchen << HKM1 < i ii iii iv v vi vii viii ix
さて、それからしばらくたったある日のこと、粗末な服を着た修道士たちの一行が、若者の住む村へとやってきました。この人たちはお日さまの下で暮らす誰より神さまを愛していて、教会の敵を滅ぼすために、国じゅうを旅してまわっているのでした。そしてもし罪びとを見つけたときは、教皇さまにかわって裁きをくだすことがゆるされていました。そういうわけで、この村でもさっそく、黒い羊さがしがはじめられました。
やがてどこかのおしゃべりが、この忠実なる神さまのしもべたちに、村はずれの一軒家で暮らす老婆のことを教えてしまいました。修道士たちはすぐさま、お役人や騎士の一団を引き連れて、魔女の家へとかけつけました。そして、ひとり留守番をしていた娘を見つけるや、捕らえて縄で縛りあげ、いやおうなしに領主さまのお城へと連れていきました。いまではそこが、信仰を守るための聖なる砦となっていたのです。
お城の地下には牢獄があって、すでにおおぜいの人びとがとじこめられていました。娘もそこへつながれて、石の床の上で寝起きしなければなりませんでした。そうしていく日か過ごしていると、やがて牢番がやってきて、娘を窓のない部屋へ連れていきました。そこでは修道士たちが待っていて、さまざまなことをたずねてきましたが、その追及はひどくきびしいものでした。この人たちは、神さまに背くふとどきものを、心の底から憎んでいたのです。取りしらべはそれからもつづけられ、ますますはげしくなっていったので、娘はほどなくすっかりやつれてしまいました。それでも、あの鳥がくれた金の卵は、日に日に大きくなっていくのでした。
ところがあるとき、娘はあんまり乱暴にあつかわれたせいで、あやうく大切な卵を割ってしまうところでした。そこで、このまま卵を持っているのがこわくなり、心配のあまりひと晩じゅう眠ることができませんでした。やがて朝が来ると、娘はまだ誰も目をさまさないうちに、鉄格子のはまった天窓の下へ行って、
くちばしの長い大きな鳥さん、
もういちどだけわたしのもとへ、
あなたの運んだこのしあわせが、
こわれることを望まぬのなら。
と呼びかけました。すると、あのときの大きな鳥が飛んできて、どうしたのかとたずねました。娘は卵をさしだして「しばらくのあいだ、この卵をあずかっていてほしいの」と言いました。「ほんとうは自分で持っていたいけど、わたしにはこれを守るちからがないの。このままだと、卵が割れてしまうのよ」。
「そうしてあげたいんだけど」と鳥は答えました。「ぼくにはできないんだ。でも、誰かあずかってくれる人の心あたりがあったら、そこへ運んでいくことはできるよ。君にお姉さんか妹はいる? そうでなければ、仲のいい女友だちでもいいからね」。
「そんな人いないわ。わたしはひとりっ子だし、友だちなんていないもの」。
「それじゃあ、残念だけど助けにはなれないよ」。
「待って、鳥さん。わたしの家の近くの村に、若い木こりが住んでいるの。あの人なら友だちも多いし、きっと誰か見つけてくれるわ。どうかお願いだから、そこへ持っていってみて」。
そこでこの大きな鳥は、金の卵を受けとると、木こりのところへ飛んでいきました。話を聞いた若者は、鳥を連れて村じゅうの娘をたずねてまわりましたが、頼みを聞いてくれるものはどこにもいませんでした。見ず知らずの娘のために、大切な卵を守ってやろうだなんて、誰ひとりとして思わなかったのです。やがて夕方になると、大きな鳥は「ぼくはもう行かないと」と言いました。「この卵は、もとの持ちぬしに返すしかないよ」。
けれども木こりの若者は「待ってくれ。もうこれいじょう、あの子につらい思いはさせられない。あずかってくれる人はかならずさがしだすから、それまでは私がその卵を守るよ」と言いました。そして金の卵を渡してくれるまで、けしてこの鳥のことを行かせようとはしませんでした。そこでとうとう大きな鳥も、この若者に卵を託すよりほかありませんでした。それからというもの、若者は毎日あちこちの村をたずねて歩きましたが、いつまでたっても助けてくれる人は見つかりませんでした。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |