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異譚メルヘン第一話一卵性兄妹


さてそれからしばらくたったある日のこと粗末な服を着た修道士たちの一行が若者の住むへとやってきましたこの人たちはお日さまの下で暮らす誰より神さまを愛していて教会の敵を滅ぼすために国じゅうを旅してまわっているのでしたそしてもし罪びとを見つけたときは教皇さまにかわって裁きをくだすことがゆるされていましたそういうわけでこのでもさっそく黒い羊さがしがはじめられました。

やがてどこかのおしゃべりがこの忠実なる神さまのしもべたちにはずれの一軒家で暮らす老婆のことを教えてしまいました修道士たちはすぐさまお役人や騎士の一団を引き連れて魔女の家へとかけつけましたそしてひとり留守番をしていた娘を見つけるや捕らえて縄で縛りあげいやおうなしに領主さまのお城へと連れていきましたいまではそこが信仰を守るための聖なる砦となっていたのです。

お城の地下には牢獄があってすでにおおぜいの人びとがとじこめられていました娘もそこへつながれて石の床の上で寝起きしなければなりませんでしたそうしていく日か過ごしているとやがて牢番がやってきて娘を窓のない部屋へ連れていきましたそこでは修道士たちが待っていてさまざまなことをたずねてきましたがその追及はひどくきびしいものでしたこの人たちは神さまに背くふとどきものを心の底から憎んでいたのです取りしらべはそれからもつづけられますますはげしくなっていったので娘はほどなくすっかりやつれてしまいましたそれでもあの鳥がくれた金の卵は日に日に大きくなっていくのでした。

ところがあるとき娘はあんまり乱暴にあつかわれたせいであやうく大切な卵を割ってしまうところでしたそこでこのまま卵を持っているのがこわくなり心配のあまりひと晩じゅう眠ることができませんでしたやがて朝が来ると娘はまだ誰も目をさまさないうちに鉄格子のはまった天窓の下へ行って、

    くちばしの長い大きな鳥さん、

    もういちどだけわたしのもとへ、

    あなたの運んだこのしあわせが、

    こわれることを望まぬのなら。

と呼びかけましたするとあのときの大きな鳥が飛んできてどうしたのかとたずねました娘は卵をさしだしてしばらくのあいだこの卵をあずかっていてほしいのと言いました。ほんとうは自分で持っていたいけどわたしにはこれを守るちからがないのこのままだと卵が割れてしまうのよ」。

そうしてあげたいんだけどと鳥は答えました。ぼくにはできないんだでも誰かあずかってくれる人の心あたりがあったらそこへ運んでいくことはできるよ君にお姉さんか妹はいる? そうでなければ仲のいい女友だちでもいいからね」。

そんな人いないわわたしはひとりっ子だし友だちなんていないもの」。

それじゃあ残念だけど助けにはなれないよ」。

待って鳥さんわたしの家の近くの若い木こりが住んでいるのあの人なら友だちも多いしきっと誰か見つけてくれるわどうかお願いだからそこへ持っていってみて」。

そこでこの大きな鳥は金の卵を受けとると木こりのところへ飛んでいきました話を聞いた若者は鳥を連れてじゅうの娘をたずねてまわりましたが頼みを聞いてくれるものはどこにもいませんでした見ず知らずの娘のために大切な卵を守ってやろうだなんて誰ひとりとして思わなかったのですやがて夕方になると大きな鳥はぼくはもう行かないとと言いました。この卵はもとの持ちぬしに返すしかないよ」。

けれども木こりの若者は待ってくれもうこれいじょうあの子につらい思いはさせられないあずかってくれる人はかならずさがしだすからそれまでは私がその卵を守るよと言いましたそして金の卵を渡してくれるまでけしてこの鳥のことを行かせようとはしませんでしたそこでとうとう大きな鳥もこの若者に卵を託すよりほかありませんでしたそれからというもの若者は毎日あちこちのをたずねて歩きましたがいつまでたっても助けてくれる人は見つかりませんでした。


著者結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新