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そういうわけで、この魔女は夕食のとき、お皿のひとつに毒を入れておきました。それを口にしたキャリスは、次の朝になるとひどい熱を出して、ベッドから起きることもできなくなりました。そこで魔女は、アサメイにこう言いました。「これはたいへんだ。いそいで薬をやらないと、おまえの双子は助からないよ。だけど悪いことに、必要な薬草をちょうど切らしていてね。あたしはこの子から目を離せないから、おまえが森で採ってきなさい。場所はあたしの使い魔が知ってるから、いっしょに連れていくんだよ」。それを聞いたアサメイは、すぐに使い魔のコウモリと森へ出かけていきました。けれどもほんとうは、毒消しの薬草ならちゃんと家にあったのです。そしてこの悪魔が、森のなかでアサメイを殺して、その心臓と肝臓を持ち帰ることになっていたのでした。
やがてアサメイとコウモリは、森のいちばん深いところまでやってきました。ところが、けんめいに薬草をさがすアサメイを見ているうちに、使い魔はだんだん気の毒になって、ついほんとうのことをしゃべってしまいました。するとアサメイは泣きだして「コウモリさん、お願いだから殺さないで。アサメイが死んでしまったら、キャリスだって生きてはいられないから」と言うのでした。その姿があんまり美しかったので、使い魔はひどくかわいそうに思い、このまま見のがしてやることにしました。そしてアサメイを行かせると、森の泉へ遊びに来ていた村の子を殺して、その心臓と肝臓をかわりに持って帰りました。ばちあたりな魔女は、それがアサメイのものだとすっかり信じて、塩ゆでにするとみんなキャリスに食べさせてしまいました。
次の朝になると、あんなに高かった熱がうそのようにさがり、キャリスはすっかりもとどおりになっていました。目をさましたキャリスは、アサメイの姿が見えないので、おばあさんのところへ行ってわけをたずねました。そこで魔女は「あの子はね、おまえのために森へ薬草をつみに行って、狼に食べられてしまったんだよ。だからおまえは、あの子のぶんまでしっかり生きて、りっぱな魔女にならないといけないよ」と答えました。そして、しばらく泣けばキャリスの気も晴れて、双子のことは忘れてしまうだろうと思っていました。
ところがそれからというもの、キャリスはすっかり元気をなくし、食事もろくにのどをとおらなくなりました。そしてどんどんやせ細り、とうとうほんものの病気になってしまいました。おばあさんは知っているかぎりの治療をためしてみましたが、なにひとつ効きめがなく、容態は日に日に悪くなるばかりでした。やがて手のつきたおばあさんは、ほかの魔女から知恵を借りるよりほかなくなりました。そこで、使い魔のコウモリにあとをまかせると、ホウキにのって出かけていきました。
その日もキャリスは、ベッドのなかでしくしく泣いているばかりでした。そしてコウモリがようすを見に行っても「コウモリさん、お願いだからかまわないで。アサメイが死んでしまったら、キャリスだって生きてはいられないから」と言うのでした。その姿があんまり美しかったので、使い魔はひどくかわいそうに思い、ついほんとうのことを教えてしまいました。するとキャリスは泣きやんで、ベッドの上で起きあがりました。そして、おばあさんが名づけ親の魔女を連れて戻ったときには、キャリスの病気はすっかりよくなっていました。
そういうわけで、また魔術の練習がはじめられました。キャリスはあいかわらず、ちっとも魔法が使えるようになりませんでしたが、おばあさんにはもう、しんぼうづよく教えつづけるよりほかありませんでした。勉強の時間がおわると、キャリスはすぐに家を飛びだして、森の泉へとかけていきました。そして水面にうつる自分の顔を見ては、仲よしの双子の名まえを呼び、日が落ちるまでずっとおしゃべりをして過ごすのでした。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |