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異譚メルヘン第一話一卵性兄妹


ところで娘の母親はといえばそれからしばらくしてようやく地獄から戻ってきましたけれども家のどこをさがしても娘の姿はなくただ銀の指輪が残されているばかりでしたちょうどそこへあのくちばしの長い鳥が飛んできて家の前をとおりかかったので母親は大きな声で呼びとめると娘を見なかったかとたずねましたすると鳥は舞いおりてきて娘がお城地下牢にいることや金の卵を木こりに託したことをすっかり話して聞かせました。

わけを知った母親はあわててお城へと飛んでいきましたが娘はつらい毎日に耐えきれずすでに死んでしまったあとでしたそこでこの年老いた魔女は怒り狂い台所へしのびこんで料理にを混ぜたのでお城にいた人はみんな死んでしまいましたそれがすむと魔女は娘の恋人のいどころをさがしはじめましたこうなったからにはせめて娘の遺した卵だけでも手に入れようと考えたのです。

ところがそのころあの木こりの若者もまたお城の地下に捕らわれていたのでしたそれというのも魔女の娘と親しくしていたことを誰かに告げ口されてしまったからですここでは自分のをつぐなうためにほかの罪びとたちの名をあかさなければならないのでしたけれども若者にはそんな心あたりがひとつもなかったので誰の名まえもあげることができませんでしたすると修道士たちはこの人をの下にあるまっ暗な小部屋にとじこめて食事も取らせてやりませんでした。

やがて魔女は若者のゆくえをつきとめお城の地下へとやってきましたの床にある戸をあけてみると若者はひとりそのなかでからっぽのおなかをかかえて倒れていましたそこで魔女あたしの娘から卵をあずかっているのはおまえだねこのまま飢え死にしたくなかったらおとなしくそれを渡すんだよと言いました。どっちみちあんなものはおまえが持ってたところでなんにもなりゃしないんだからね」。

ああどうかここから出してくださいと若者は言いました。できることならなんでもしますでも残念ながらあの卵はもうないんです」。

なんだって? いったいどこへやったんだい」。

すると若者はおなかをおさえてここですと答えました。このお城へ来てすぐに服をみんな脱ぐようにと言われたんです卵をポケットへ入れたままにはできないので私はこっそり口のなかに隠しましたでもそのあと針でからだじゅうを刺されたときにあんまり痛くておもわず飲みこんでしまったんです」。

まったくなんてことをしてくれたんだろうね!魔女はあきれて叫びました。おまえにはそれがどういうことだかわかってるのかい? その卵は赤ん坊のもとなんだよこのままだとおまえ腹がふくれて死ぬしかないね」。

それを聞いて若者はひどくおそろしくなりましたそこで魔女の足もとにすがりつくとお願いだから助けてくださいそんな死にかたはしたくありませんと訴えましたすると魔女は、

もう手おくれだよいまさら卵を取りだすなんてできやしないんだからねでももしおまえに子どもを産む覚悟があるんならあたしが手をかしてちゃんと取りあげてやろうその赤ん坊はあたしにとってものつながった孫なんだからねと言いましたそして若者がなんでも言われたとおりにすると約束したのでから出して家へ連れて帰りました。


著者結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新