◆ Märchen << HKM1 < i ii iii iv v vi vii viii ix
ところで娘の母親はといえば、それからしばらくして、ようやく地獄から戻ってきました。けれども、家のどこをさがしても娘の姿はなく、ただ銀の指輪が残されているばかりでした。ちょうどそこへ、あのくちばしの長い鳥が飛んできて、家の前をとおりかかったので、母親は大きな声で呼びとめると、娘を見なかったかとたずねました。すると鳥は舞いおりてきて、娘がお城の地下牢にいることや、金の卵を木こりに託したことを、すっかり話して聞かせました。
わけを知った母親は、あわててお城へと飛んでいきましたが、娘はつらい毎日に耐えきれず、すでに死んでしまったあとでした。そこでこの年老いた魔女は怒り狂い、台所へしのびこんで料理に毒を混ぜたので、お城にいた人はみんな死んでしまいました。それがすむと、魔女は娘の恋人のいどころをさがしはじめました。こうなったからには、せめて娘の遺した卵だけでも手に入れようと考えたのです。
ところがそのころ、あの木こりの若者もまた、お城の地下に捕らわれていたのでした。それというのも、魔女の娘と親しくしていたことを、誰かに告げ口されてしまったからです。ここでは自分の罪をつぐなうために、ほかの罪びとたちの名をあかさなければならないのでした。けれども、若者にはそんな心あたりがひとつもなかったので、誰の名まえもあげることができませんでした。すると修道士たちは、この人を牢の下にあるまっ暗な小部屋にとじこめて、食事も取らせてやりませんでした。
やがて、魔女は若者のゆくえをつきとめ、お城の地下へとやってきました。牢の床にある戸をあけてみると、若者はひとりそのなかで、からっぽのおなかをかかえて倒れていました。そこで魔女は「あたしの娘から卵をあずかっているのはおまえだね。このまま飢え死にしたくなかったら、おとなしくそれを渡すんだよ」と言いました。「どっちみち、あんなものはおまえが持ってたところで、なんにもなりゃしないんだからね」。
「ああ、どうかここから出してください」と若者は言いました。「できることならなんでもします。でも、残念ながらあの卵はもうないんです」。
「なんだって? いったいどこへやったんだい」。
すると若者は、おなかをおさえて「ここです」と答えました。「このお城へ来てすぐに、服をみんな脱ぐようにと言われたんです。卵をポケットへ入れたままにはできないので、私はこっそり口のなかに隠しました。でも、そのあと針でからだじゅうを刺されたときに、あんまり痛くておもわず飲みこんでしまったんです」。
「まったく、なんてことをしてくれたんだろうね!」と魔女はあきれて叫びました。「おまえには、それがどういうことだかわかってるのかい? その卵は赤ん坊のもとなんだよ。このままだとおまえ、腹がふくれて死ぬしかないね」。
それを聞いて、若者はひどくおそろしくなりました。そこで、魔女の足もとにすがりつくと「お願いだから助けてください、そんな死にかたはしたくありません」と訴えました。すると魔女は、
「もう手おくれだよ。いまさら卵を取りだすなんて、できやしないんだからね。でも、もしおまえに子どもを産む覚悟があるんなら、あたしが手をかしてちゃんと取りあげてやろう。その赤ん坊は、あたしにとっても血のつながった孫なんだからね」と言いました。そして、若者がなんでも言われたとおりにすると約束したので、牢から出して家へ連れて帰りました。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |