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異譚メルヘン第一話一卵性兄妹


魔女のもとで暮らすうちに若者のおなかはしだいに大きくなっていきましたやがて月が満ちると年老いた魔女は若者を眠らせはさみでおなかを切りひらいて赤ん坊を取りあげましたけれどもこの魔女留守のあいだに娘をたぶらかした若者のことをほんとうはずっと憎んでいたのでしたそこで針と糸で傷口を縫いあわせる前になかに大きな石をつめておいたのですまもなく目をさました若者はひどくのどがかわいていたので井戸へ行って水を飲まずにはいられませんでしたところがベッドからおりてみるとおなかに入っている石のせいでからだがあっちへ行ったりこっちへ行ったりしましたそんなわけで若者はおなかが重いごつごつ固いこれはいったいなんだろう赤ん坊だと思っていたのにまるで石でも入ってるようだと言いながら裏庭にある井戸のそばまでやってきましたそして桶を取ろうと身をのりだしたとたん石の重みに引っぱられて井戸のなかへ落ちましたそれから若者はいやというほど水を飲みそのまま溺れてしまいました。

ところで生まれてきた赤ん坊は双子でしたけれどもこの子どもたちはどちらもふつうの赤ん坊とはちがって男の子とも女の子ともつかない姿をしていましたいままでたくさんのものを見てきたおばあさんでさえこんな子どもを目にするのははじめてでしたがそれでもまあいいだろうあたしのを引いているんだちゃんと魔法が使えるようになるさと言うとふたりを育ててやることにきめましたそして知りあいの魔女名親を頼みひとりはキャリスもうひとりはアサメイという名まえをつけてもらいました。

双子はやがてきらめく金の髪を持つ誰より美しい子どもになりましたふたりはたいそう仲よしでどんなときもけして離れようとはしませんでしたおたがいの思いはいつも同じだったのでひとりが笑えばもうひとりも笑いひとりが泣けばもうひとりも泣きましたそのうえこの子たちはとてもそっくりだったので向きあえばまるで鏡を見ているようでしたキャリスいつまでもいっしょだよと言うとアサメイ生きてるかぎりずっとねと答えましたそしていくつになってもの男の子たちとも女の子たちとも友だちにならずあいかわらずふたりきりで過ごしていましたひと気のない暗い森この子たちの遊び場でした。

さてふたりが年ごろになるとさっそく魔術の手ほどきがはじめられましたところがこの子どもたちはどれほどくり返し教えてみてもたったひと株の苗を霜から守ることさえできるようになりませんでしたやがておばあさんは双子のからだに流れる魔女の血ひどく薄くなっていることに気がつきました。なんてことだろうこれはきっと男の腹で育ったせいに違いないとおばあさんは考えました。それでがけがれてちからが弱くなってしまったんだ」そこでおばあさんはふたりのなかに残る魔女の血ひとつにあつめて濃くすることにきめましたもともと跡継ぎはひとりいればじゅうぶんだったのですから。


著者結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新