◆ Märchen << HKM1 < i ii iii iv v vi vii viii ix
魔女のもとで暮らすうちに、若者のおなかはしだいに大きくなっていきました。やがて月が満ちると、年老いた魔女は若者を眠らせ、はさみでおなかを切りひらいて赤ん坊を取りあげました。けれどもこの魔女は、留守のあいだに娘をたぶらかした若者のことを、ほんとうはずっと憎んでいたのでした。そこで、針と糸で傷口を縫いあわせる前に、なかに大きな石をつめておいたのです。まもなく目をさました若者は、ひどくのどがかわいていたので、井戸へ行って水を飲まずにはいられませんでした。ところがベッドからおりてみると、おなかに入っている石のせいで、からだがあっちへ行ったりこっちへ行ったりしました。そんなわけで若者は「おなかが重い、ごつごつ固い、これはいったいなんだろう。赤ん坊だと思っていたのに、まるで石でも入ってるようだ」と言いながら、裏庭にある井戸のそばまでやってきました。そして、桶を取ろうと身をのりだしたとたん、石の重みに引っぱられて井戸のなかへ落ちました。それから若者はいやというほど水を飲み、そのまま溺れてしまいました。
ところで、生まれてきた赤ん坊は双子でした。けれどもこの子どもたちは、どちらもふつうの赤ん坊とはちがって、男の子とも女の子ともつかない姿をしていました。いままでたくさんのものを見てきたおばあさんでさえ、こんな子どもを目にするのははじめてでしたが、それでも「まあいいだろう。あたしの血を引いているんだ、ちゃんと魔法が使えるようになるさ」と言うと、ふたりを育ててやることにきめました。そして、知りあいの魔女に名親を頼み、ひとりはキャリス、もうひとりはアサメイという名まえをつけてもらいました。
双子はやがて、きらめく金の髪を持つ誰より美しい子どもになりました。ふたりはたいそう仲よしで、どんなときもけして離れようとはしませんでした。おたがいの思いはいつも同じだったので、ひとりが笑えばもうひとりも笑い、ひとりが泣けばもうひとりも泣きました。そのうえこの子たちはとてもそっくりだったので、向きあえばまるで鏡を見ているようでした。キャリスが「いつまでもいっしょだよ」と言うと、アサメイは「生きてるかぎりずっとね」と答えました。そしていくつになっても、村の男の子たちとも女の子たちとも友だちにならず、あいかわらずふたりきりで過ごしていました。ひと気のない暗い森が、この子たちの遊び場でした。
さて、ふたりが年ごろになると、さっそく魔術の手ほどきがはじめられました。ところがこの子どもたちは、どれほどくり返し教えてみても、たったひと株の苗を霜から守ることさえできるようになりませんでした。やがておばあさんは、双子のからだに流れる魔女の血が、ひどく薄くなっていることに気がつきました。「なんてことだろう。これはきっと、男の腹で育ったせいに違いない」とおばあさんは考えました。「それで血がけがれて、ちからが弱くなってしまったんだ」。そこでおばあさんは、ふたりのなかに残る魔女の血を、ひとつにあつめて濃くすることにきめました。もともと、跡継ぎはひとりいればじゅうぶんだったのですから。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |