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異譚メルヘン第一話一卵性兄妹


そうして暮らすうちに一年がたちましたあるときキャリスおばあさんに言いつけられてひとりで納屋の掃除をしていましたすると棚の奥から古びた角笛が出てきたのですがそれには吹き口がついていなかったのでどうやっても鳴らすことができませんでしたがっかりしたキャリスやがて仕事がおわるといつものようにアサメイに会いに行ってそのことを話して聞かせましたそうしてふと見ると雪のように白い一本の水のなかから浮かびあがってくるところでしたそれは角笛の吹き口にちょうどよさそうだったのでキャリスはきっとアサメイが贈ってくれたのだと思い拾いあげると大切に持って帰りました。

ところがそのをけずって新しい吹き口をつくりためしに吹いてみると角笛はひとりでに歌いはじめ、

    魔女の血を引く双子のかたわれさん、

     君が吹いているのはぼくのだよ。

    魔女使い魔がぼくを殺して、

     君たちの泉に捨てたのさ。

    魔女の言いつけにこっそり背いて、

     君の双子を逃がした身がわりに。

とくり返すのでしたちょうどそこへ双子のおばあさんが帰ってきての歌声を聞きました魔女にはその意味がよくわかったのですぐに使い魔のところへ飛んでいきましたそしてよくもだましてくれたね!と叫ぶとコウモリを捕まえてばらばらに引き裂き家畜小屋のなかへ投げこんでしまいましたところでそのなかではちょうどたくさんの豚たちがえさをあさっているところでした豚はこのコウモリも食べてしまったので悪魔の魂はそのなかに入りましたすると豚の群れはみんな戸をやぶってそとへ飛びだし近くの川へなだれこんで死んでしまいました。

さてそれから年老いた魔女キャリスをむりやりホウキにのせると森の奥にある高い塔へと連れていきましたそのには出入り口も階段もなくいちばん上に小さな窓があるだけでした魔女はそのなかにキャリスをとじこめるといいかいここでおとなしくしてるんだよあたしがしてるのはみんなおまえのためになることなんだからねと言いましたそして用心のために銀の指輪をキャリスの指にはめておきましたそこには古いルーネ文字で、

    われをその身に帯びしは

     なにびとにも触れられざるものなり

    このものに害をなさんと欲するは

     その害をおのが身へと受けるものなり

と刻まれているのでしたそれがすむと魔女キャリスがなにを言っても聞かずアサメイをさがしに飛びたっていってしまいました。


著者結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新