◆ Märchen << HKM1 < i ii iii iv v vi vii viii ix
そうして暮らすうちに一年がたちました。あるときキャリスは、おばあさんに言いつけられて、ひとりで納屋の掃除をしていました。すると、棚の奥から古びた角笛が出てきたのですが、それには吹き口がついていなかったので、どうやっても鳴らすことができませんでした。がっかりしたキャリスは、やがて仕事がおわると、いつものようにアサメイに会いに行って、そのことを話して聞かせました。そうしてふと見ると、雪のように白い一本の骨が、水のなかから浮かびあがってくるところでした。それは角笛の吹き口にちょうどよさそうだったので、キャリスはきっとアサメイが贈ってくれたのだと思い、拾いあげると大切に持って帰りました。
ところが、その骨をけずって新しい吹き口をつくり、ためしに吹いてみると、角笛はひとりでに歌いはじめ、
魔女の血を引く双子のかたわれさん、
君が吹いているのはぼくの骨だよ。
魔女の使い魔がぼくを殺して、
君たちの泉に捨てたのさ。
魔女の言いつけにこっそり背いて、
君の双子を逃がした身がわりに。
とくり返すのでした。ちょうどそこへ、双子のおばあさんが帰ってきて、骨の歌声を聞きました。魔女にはその意味がよくわかったので、すぐに使い魔のところへ飛んでいきました。そして「よくもだましてくれたね!」と叫ぶと、コウモリを捕まえてばらばらに引き裂き、家畜小屋のなかへ投げこんでしまいました。ところで、そのなかではちょうど、たくさんの豚たちがえさをあさっているところでした。豚はこのコウモリも食べてしまったので、悪魔の魂はそのなかに入りました。すると、豚の群れはみんな戸をやぶってそとへ飛びだし、近くの川へなだれこんで死んでしまいました。
さて、それから年老いた魔女は、キャリスをむりやりホウキにのせると、森の奥にある高い塔へと連れていきました。その塔には出入り口も階段もなく、いちばん上に小さな窓があるだけでした。魔女はそのなかにキャリスをとじこめると「いいかい、ここでおとなしくしてるんだよ。あたしがしてるのは、みんなおまえのためになることなんだからね」と言いました。そして用心のために、銀の指輪をキャリスの指にはめておきました。そこには古いルーネ文字で、
われをその身に帯びしは
なにびとにも触れられざるものなり
このものに害をなさんと欲するは
その害をおのが身へと受けるものなり
と刻まれているのでした。それがすむと、魔女はキャリスがなにを言っても聞かず、アサメイをさがしに飛びたっていってしまいました。
Home <<< Mächen << HKM1 < ? ← Page. 6 / 9 → ↑
著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |