◆ Märchen << HKM1 < i ii iii iv v vi vii viii ix
さて、そのころアサメイはといえば、森を抜けたずっとさきにある、北の果ての国へとやってきていました。そこは戦乙女のお姫さまが治める王国で、女でなければ住むことをゆるされていませんでした。お城のまわりにはまっ白な城壁がありましたが、そばへ近づいてみると、それはすっかり骨でできていました。この国に足を踏みいれた男たちは、みんな殺されることになっていたのです。そして、この国に足を踏みいれた女たちは、みんなお姫さまに仕える兵士にならなければなりませんでした。
やがてアサメイも、王国を守る娘兵士たちに捕らえられてしまいました。ところが娘たちは、この旅人が男とも女ともつかなかったので、どうしたらよいのかわかりませんでした。そこでアサメイは、お姫さまの前に引きだされ、その判断にゆだねられることになりました。
アサメイを目にした戦乙女のお姫さまは、考えたすえに言いました。「おまえは男ではないから、おきてによって殺すことはしないが、女でもないので、わが軍の兵士として迎えるわけにもいかない。そこでどうだろう、わたしのそばに仕え、身のまわりの世話をするつもりはないか?」
けれどもアサメイは「お願いですお姫さま、どうかこのまま行かせてください」と答えました。そしてわけを話すと「キャリスはひとりっきりで、あのおそろしい魔女のもとに残されているんです。早く助ける方法を見つけて、迎えに行かなければなりません」と言いました。
それを聞いたお姫さまは「残念だが、ひとたびこの国に足を踏みいれたからには、誰も生きたまま帰してやることはできない。わたしの申し出を受けないというのなら、死ぬまで牢に入っていてもらうだけだ」と告げたのですが、アサメイはどうしてもあきらめようとしませんでした。そこでこのお姫さまも、だんだんかわいそうになってきて「ならばそのかわりに、わが騎士団を派遣して、おまえの双子を連れてこさせよう。それなら文句はあるまいな」と言いました。そういうわけでアサメイも、よろこんでお姫さまづきの小間使いをすることになりました。
送りだされた騎士団は、それから一年近くたってようやく戻ってきましたが、そこにキャリスの姿はありませんでした。さすがの勇敢な乙女騎士たちにも、巨人たちの国から王子さまの花嫁を連れだすことはできなかったのです。報告を聞いたアサメイは、キャリスがまもなく結婚しなければならないと知ると、心配でたまらなくなりました。そして「いったいどうしたらいいの? キャリスを助けるためだったら、アサメイはなんだってするのに」と嘆きながら、ぽろぽろと涙をこぼすのでした。
すると戦乙女のお姫さまは、泣いているアサメイがあんまり美しかったので、やさしくなぐさめてやらずにはいられませんでした。ずっとそばへ置くうちに、すっかりこの小間使いが気に入ってしまったのです。そこでお姫さまは「巨人族の王子となれば手ごわい相手だ。わたしがみずから出るよりほかに、かなうものはいないだろう。だがもしおまえが男になることを選んで、わたしと結婚してくれるなら、おまえの双子を助けてあげよう」と言いました。それを聞いたアサメイは、
「わかりました」と答え、束ねていた金の髪を切り落として言いました。「それではこれを、誓いのあかしとしてさしあげます。約束を守ってくれたなら、アサメイはあなたのものになります」。
そういうわけでお姫さまは、アサメイをかまどのなかに入れ、ひと晩そこで眠らせました。すると目がさめたときには、アサメイはすっかり男になっていました。それを見とどけた勇ましい花嫁は、戦じたくをととのえると、さっそうと出かけていきました。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |