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異譚メルヘン第三話天国への道


いけにえの子が生き返ってから千年を数えない時代のことですあるところにひとりではなにひとつ満足にできずいつも失敗ばかりしている娘がいましたそこでみんなこの娘のことを名まえではなく役立たずと呼んでいました役立たずはいちばん上のお姉さんでしたがいくつになってもいそがしい両親の助けにはなれず逆にその仕事を増やすことしかできませんでしたそのうち両親もあきらめてほんとうなら年長の子どもがやるはずの仕事を妹や弟たちにまかせるようになりましたそして役立たずにはいちばん簡単な手伝いだけさせておきそれはいくら下の子が増えようと変わることがありませんでした。

さてあるとき役立たずのお母さんにまた新しい子どもができたのでいつものように家へお手伝いさんを置くことになりましたこんどやってきたお手伝いさんはでいちばん美しい娘でしたこの人はいずれ役立たずのすぐ下の弟と結婚することになっていたのでしばらくいっしょに暮らせるときまってたいそうよろこんでいましたそれに家事がとても得意で毎日かいがいしく働いてくれたのでお母さんはすっかり安心して休んでいることができました。

ところで役立たずはと言えばあいかわらずあれこれと失敗ばかりしていましたいままで役立たずのめんどうを見ていたのはお母さんだったのでこんどからはお手伝いの娘がそのあとしまつをしてやらなければなりませんでしたそういうときも娘はいやな顔ひとつせずに言いました。気になさらないでお義姉さまあとはあたしがやりますから向こうへ行っていてくださいなでもこんどからはもう少し注意なさってね」けれども役立たずがいなくなると娘はひとりであとかたづけをしながらお義姉さまがあんなふうじゃこの家の人たちもたいへんねああなんだって神さまはあのような役立たずをおつくりになったのかしらとため息をつくのでした。

そうして暮らしているうちに役立たずの弟の誕生日がやってきましたお手伝いの娘はこの日をずっと楽しみにしていてとびきりのごちそうでおいわいしてあげるつもりでしたそのためにこれまでとぼしい食料庫の中身をじょうずにやりくりしどうにか必要な材料を残しておいたのですやがて家の人たちが畑へ出かけてしまうと娘はさっそく料理をはじめお昼までにはあらかたつくりあげてしまいましたけれどもそこへ正午の祈りの刻を告げる教会の鐘が聞こえてきたので娘はひとまず手をとめていそいでみんなのところへお弁当を届けに行かなければなりませんでした。

ところが台所に誰もいなくなるとおいしそうなにおいをかぎつけたネズミたちがごちそうの味見をしようと姿をあらわしましたちょうどそこへやってきた役立たずまねかれざるお客さまがたの顔を目にするや持っていたホウキを振りまわしてお引きとりを願いましたけれども最後の一匹を追いはらったひょうしにホウキがお皿に命中しごちそうをテーブルの上からはたき落としてしまいました。

やがて台所へ戻ってきた娘はそのありさまを見てとうとう泣きだしてしまいましたそしてあたしもう耐えられないわ神さまでもないかぎりお義姉さまのめんどうなんて見きれないのよと言うとそのまま荷物をまとめて自分の家へ帰ってしまいました。

それを聞いて役立たずたしかにあの子の言うとおりだと思いました。神さまのところだったらきっとどんなにだめな子がいても迷惑にはならないわいまから天国をたずねてそこに置いてもらえないか聞いてみることにしよう」そしてすぐにを出ると天国をめざしてどんどん歩いていきました。


著者結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新