◆ Märchen << HKM3 < i ii iii iv v vi vii viii ix x xi xii xiii xiv xv xvi xvii
いけにえの子が生き返ってから、千年を数えない時代のことです。あるところに、ひとりではなにひとつ満足にできず、いつも失敗ばかりしている娘がいました。そこでみんなこの娘のことを、名まえではなく『役立たず』と呼んでいました。役立たずはいちばん上のお姉さんでしたが、いくつになってもいそがしい両親の助けにはなれず、逆にその仕事を増やすことしかできませんでした。そのうち両親もあきらめて、ほんとうなら年長の子どもがやるはずの仕事を、妹や弟たちにまかせるようになりました。そして、役立たずにはいちばん簡単な手伝いだけさせておき、それはいくら下の子が増えようと変わることがありませんでした。
さて、あるとき役立たずのお母さんにまた新しい子どもができたので、いつものように家へお手伝いさんを置くことになりました。こんどやってきたお手伝いさんは、村でいちばん美しい娘でした。この人はいずれ、役立たずのすぐ下の弟と結婚することになっていたので、しばらくいっしょに暮らせるときまってたいそうよろこんでいました。それに家事がとても得意で、毎日かいがいしく働いてくれたので、お母さんはすっかり安心して休んでいることができました。
ところで役立たずはと言えば、あいかわらずあれこれと失敗ばかりしていました。いままで役立たずのめんどうを見ていたのはお母さんだったので、こんどからはお手伝いの娘がそのあとしまつをしてやらなければなりませんでした。そういうときも、娘はいやな顔ひとつせずに言いました。「気になさらないで、お義姉さま。あとはあたしがやりますから、向こうへ行っていてくださいな。でも、こんどからはもう少し注意なさってね」。けれども役立たずがいなくなると、娘はひとりであとかたづけをしながら「お義姉さまがあんなふうじゃ、この家の人たちもたいへんね。ああ、なんだって神さまは、あのような役立たずをおつくりになったのかしら」とため息をつくのでした。
そうして暮らしているうちに、役立たずの弟の誕生日がやってきました。お手伝いの娘はこの日をずっと楽しみにしていて、とびきりのごちそうでおいわいしてあげるつもりでした。そのためにこれまで、とぼしい食料庫の中身をじょうずにやりくりし、どうにか必要な材料を残しておいたのです。やがて家の人たちが畑へ出かけてしまうと、娘はさっそく料理をはじめ、お昼までにはあらかたつくりあげてしまいました。けれどもそこへ、正午の祈りの刻を告げる教会の鐘が聞こえてきたので、娘はひとまず手をとめて、いそいでみんなのところへお弁当を届けに行かなければなりませんでした。
ところが台所に誰もいなくなると、おいしそうなにおいをかぎつけたネズミたちが、ごちそうの味見をしようと姿をあらわしました。ちょうどそこへやってきた役立たずは、まねかれざるお客さまがたの顔を目にするや、持っていたホウキを振りまわしてお引きとりを願いました。けれども、最後の一匹を追いはらったひょうしに、ホウキがお皿に命中し、ごちそうをテーブルの上からはたき落としてしまいました。
やがて台所へ戻ってきた娘は、そのありさまを見て、とうとう泣きだしてしまいました。そして「あたしもう耐えられないわ。神さまでもないかぎり、お義姉さまのめんどうなんて見きれないのよ」と言うと、そのまま荷物をまとめて自分の家へ帰ってしまいました。
それを聞いて、役立たずも「たしかにあの子の言うとおりだ」と思いました。「神さまのところだったらきっと、どんなにだめな子がいても迷惑にはならないわ。いまから天国をたずねて、そこに置いてもらえないか聞いてみることにしよう」。そしてすぐに村を出ると、天国をめざしてどんどん歩いていきました。
Home <<< Mächen << HKM3 < ? ← Page. 1 / 17 → ↑
著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |