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それから役立たずは、深い谷へたどりつきました。すると向こうから、年老いた醜い小人がやってきて「ごきげんよう、お嬢さん」とあいさつをしました。
そこで役立たずは「ありがとう、小人さん。でもあたし、ごきげんになんてなれっこないわ」と答えました。「だって、神さまがあたしをおつくりになったせいで、家族がたいへんな思いをしなければならないんですもの」。
「それで、これからどうするつもりだね」。
「神さまをたずねて、みもとに置いてもらえないか聞いてみるつもりよ。でも困ったわ、どうしたら天国へ行けるのかわからないの」。
それを聞いた小人は「なんだい、そんなことも知らないのかね」と笑いました。「だったら教えてやるがね、なにもしなくていいんだよ。ただ食べものも飲みものも口にしないだけで、あとは眠くなるまでじっと待てばいい。しばらく時間はかかるかもしれんが、目がさめたときにはちゃんと天国についてるだろうさ」。
役立たずは「よかった、それなら失敗のしようがない」と考えて、おおよろこびでお礼をいいました。そして小人と別れると、赤いコケにおおわれた洞窟の入り口をくぐり、奥まで行って身をよこたえました。そうして長いこと待っていると、ついにまぶたが重くなり、役立たずは深い眠りにつきました。ところが、ずっとなにも口にしていなかったせいで、寝ている役立たずのおなかはぐうぐうと大きな音で鳴っていました。するとそこへ、仕事に向かうとちゅうの羊飼いがとおりかかり、なんの音かと思って洞窟へ入ってきました。そして眠っている役立たずを見つけると、連れていた羊のお乳をしぼってきて、その口のなかへ流しこみました。役立たずのおなかがいっぱいになって鳴りやむと、羊飼いはまた自分の仕事へ戻っていきました。
やがて役立たずは目をさましましたが、あたりがまっ暗なので「ここはまだ天国じゃないらしい。もうひと眠りしてみよう」と考えて、もういちどまぶたが重くなるのをじっと待ちました。けれども、それから役立たずが眠りに落ちるたびに、おなかの鳴る音を聞きつけて、あの羊飼いがお乳を飲ませに来るのでした。そういうわけで役立たずは、いつまでたっても天国へは行けず、あいかわらず洞窟のなかでよこたわっているばかりでした。
そのうち役立たずは、とうとうしんぼうができなくなりました。そして「あたしはどこまでだめな子なんだろう、こんな簡単なこともできないなんて」と言うと、神さまをたずねるのはあきらめて、このまま洞窟をあとにするよりほかありませんでした。けれども、あんまり長いあいだごつごつとした岩の上に寝ていたせいで、背中や頭の皮がすっかりむけてしまい、髪の毛も抜けて二度と生えてきませんでした。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |