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異譚メルヘン第三話天国への道


それから役立たず澄んだ泉のほとりへたどりつきましたすると向こうから年老いた醜い小人がやってきてごきげんようお嬢さんとあいさつをしました。

そこで役立たずありがとう小人さんでもあたしごきげんになんてなれっこないわと答えました。だって神さまがあたしをおつくりになったせいで家族がたいへんな思いをしなければならないんですもの」。

それでこれからどうするつもりだね」。

神さまをたずねてみもとに置いてもらえないか聞いてみるつもりよでも困ったわどうしたら天国へ行けるのかわからないの」。

それを聞いた小人なんだいそんなことも知らないのかねと笑いましたそして銅でできた赤い杯を取りだすとだったらこの杯をやろうこれいっぱいに自分のを満たしたらあとはただ眠っているだけでいい目がさめたときにはちゃんと天国についてるだろうさと言いました。

役立たずがおおよろこびでお礼を言うと小人は杯を渡して去っていきましたそこで役立たずさっそくナイフで手首を切るとそのなかにをそそぎいれましたところがいくら待ってみても杯はちっともいっぱいにならずそれどころか入ってくるものをどんどん吸いこんでいるみたいでした役立たずはなんども深く切りなおしてさらにたくさんのを流してみましたがとうとう手首を切り落としてしまっても杯が満ちることはありませんでしたそのうち役立たずのからだはしびれはじめくずれるようにその場へよこたわりましたがひどく手足がふるえて少しもじっとしていないのでとても眠るどころではありませんでしたするとそこへお酒を売り歩いている商人がとおりかかり持っていた赤ワインを役立たずに飲ませましたやがてびんがすっかりからっぽになるとようやくからだのしびれが取れ役立たずはまた起きあがれるようになりました。

わけを知った商人はこんな杯にを満たしたところで天国へはけっして行けないよいいかいもうこんなことをしてはだめだからねと言いましたそういうわけで役立たずまた天国へつづく道をさがして歩いていかなければなりませんでしたけれども切り落とした手首はどこかへなくなってしまいもうもとには戻りませんでした。


著者結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新