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それから役立たずは、澄んだ泉のほとりへたどりつきました。すると向こうから、年老いた醜い小人がやってきて「ごきげんよう、お嬢さん」とあいさつをしました。
そこで役立たずは「ありがとう、小人さん。でもあたし、ごきげんになんてなれっこないわ」と答えました。「だって、神さまがあたしをおつくりになったせいで、家族がたいへんな思いをしなければならないんですもの」。
「それで、これからどうするつもりだね」。
「神さまをたずねて、みもとに置いてもらえないか聞いてみるつもりよ。でも困ったわ、どうしたら天国へ行けるのかわからないの」。
それを聞いた小人は「なんだい、そんなことも知らないのかね」と笑いました。そして銅でできた赤い杯を取りだすと「だったらこの杯をやろう。これいっぱいに自分の血を満たしたら、あとはただ眠っているだけでいい。目がさめたときには、ちゃんと天国についてるだろうさ」と言いました。
役立たずがおおよろこびでお礼を言うと、小人は杯を渡して去っていきました。そこで役立たずは、さっそくナイフで手首を切ると、そのなかに血をそそぎいれました。ところがいくら待ってみても、杯はちっともいっぱいにならず、それどころか入ってくるものをどんどん吸いこんでいるみたいでした。役立たずはなんども深く切りなおして、さらにたくさんの血を流してみましたが、とうとう手首を切り落としてしまっても、杯が満ちることはありませんでした。そのうち役立たずのからだはしびれはじめ、くずれるようにその場へよこたわりましたが、ひどく手足がふるえて少しもじっとしていないので、とても眠るどころではありませんでした。するとそこへ、お酒を売り歩いている商人がとおりかかり、持っていた赤ワインを役立たずに飲ませました。やがてびんがすっかりからっぽになると、ようやくからだのしびれが取れ、役立たずはまた起きあがれるようになりました。
わけを知った商人は「こんな杯に血を満たしたところで、天国へはけっして行けないよ。いいかい、もうこんなことをしてはだめだからね」と言いました。そういうわけで役立たずは、また天国へつづく道をさがして歩いていかなければなりませんでした。けれども、切り落とした手首はどこかへなくなってしまい、もうもとには戻りませんでした。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |