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異譚メルヘン第三話天国への道


それから役立たずけわしい雪山のふもとへたどりつきましたそこには一軒の家が建っていて年老いた醜い魔女がひとりで住んでいました窓のなかをのぞいてみると魔女いそがしいいそがしいとぶつくさ言いながら山のようなパン生地をこねているところでした。

それを見て役立たずどうかお手伝いさせてくださいと言いました。お願いですおばあさんあたしどこにも行くところがないんです食べるものと寝るところさえあったらほかにはなにもいりません」。

すると魔女そんなに言うなら働かせてやるけどねと言いました。ただしなまけたりしたらしょうちしないよそのときはまな板にでも変えてやるから覚悟するんだね」。

こうして役立たず魔女の家で料理番をすることになりましたもちろん役立たずのすることはあいかわらず失敗ばかりでしたがそれでも魔女は横から指図をするだけでけして手をかそうとはしませんでしたそしてどれだけ時間がかかろうと言いつけた仕事がすっかりかたづくまで役立たずをゆるしてやることはありませんでした魔女たちのお茶会に出す焼き菓子をうっかりかまどに入れたままで黒こげにしてしまったときもこのできの悪い料理番はたったひとりでうるさがたのお客さんたちになじられながらあわててつくりなおさなければなりませんでした。

そうして暮らすうちに七年が過ぎましたその日の朝いつまでたっても魔女が出てこないので役立たずは部屋へ呼びに行きましたすると年老いた魔女まだベッドによこたわったままでしたそしてやってきた料理番の顔を見るといままでよく言うことを聞いてしっかりと働いてくれたねだけどそれも今日でおわりだよと言いました。どうやらわたしはもう死ぬときが来たようだからね」。

それを聞いた役立たずはびっくりしてそんなのいやよおばあさんと叫びました。お願いだからあたしを置いていかないで」。

けれども魔女は首を横に振りこればっかりはわたしにもどうしようもないんだよと言いました。でもねちっとも心配することはないよおまえはもう料理なら誰よりじょうずにできるんだからねひとりでもちゃんとやっていけるよ」。

それでもおばあさんがいなかったらあたしどうしたらいいかわからないわ」。

それじゃこうしようもしどうしても困ったときはわたしの妹をたずねてごらんこの家の前の道をまっすぐ行ったところに住んでるからねさあほらそんなことよりもっと近くへ来なさいこれまでのお礼におまえにあげるものがあるんだからね」。

そう言って魔女が手を触れると役立たずのなくした足が生えてきてまたもとどおりになりましたそれからこの人は目をとじて息を引きとりました役立たずは泣きながら魔女を埋めると家をあとにしてまっすぐ歩いていきました。


著者結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新