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異譚メルヘン第三話天国への道


それから役立たず深い谷へたどりつきましたそこには一軒の家が建っていて年老いた醜い魔女おおぜいのみなしごといっしょに住んでいました窓のなかをのぞいてみると魔女いそがしいいそがしいとぶつくさ言いながらひとりで幼い子どもたちみんなの世話をしているところでした。

それを見て役立たずどうかお手伝いさせてくださいと言いました。お願いですおばあさんあたしどこにも行くところがないんです食べるものと寝るところさえあったらほかにはなにもいりません」。

すると魔女そんなに言うなら働かせてやるけどねと言いました。ただしなまけたりしたらしょうちしないよそのときはおしめにでも変えてやるから覚悟するんだね」。

こうして役立たず魔女の家で子守りをすることになりましたもちろん役立たずのすることはあいかわらず失敗ばかりでしたがそれでも魔女は横から指図をするだけでけして手をかそうとはしませんでしたそしてどれだけ時間がかかろうと言いつけた仕事がすっかりかたづくまで役立たずをゆるしてやることはありませんでしたうっかりきげんをそこねるたびに子どもたちはこのできの悪い子守りの言うことをちっとも聞かなくなりましたがいくら仲なおりをしようとためしてみても前と同じやりかたでは二度とうまくいかないのでした。

そうして暮らすうちに七年が過ぎ子どもたちもすっかり大きくなりましたその日の朝いつまでたっても魔女が出てこないので役立たずは部屋へ呼びに行きましたすると年老いた魔女まだベッドによこたわったままでしたそしてやってきた子守りの顔を見るといままでよく言うことを聞いてしっかりと働いてくれたねだけどそれも今日でおわりだよと言いました。どうやらわたしはもう死ぬときが来たようだからね」。

それを聞いた役立たずはびっくりしてそんなのいやよおばあさんと叫びました。お願いだからあたしを置いていかないで」。

けれども魔女は首を横に振りこればっかりはわたしにもどうしようもないんだよと言いました。でもねちっとも心配することはないよおまえはもう子守りなら誰よりじょうずにできるんだからねひとりでもちゃんとやっていけるよ」。

それでもおばあさんがいなかったらあたしどうしたらいいかわからないわ」。

それじゃこうしようわたしが死んだら子どもたちを連れて街へ行きなさいこの家の前の道をまっすぐ行ったところにあるからねそれからあの子たちが街で暮らせるように市長に会って頼むんだよこの鍵を持っていけばきっとうまくいくからねそのあとおまえがどうすればいいのかも行ってみればちゃんとわかるよでもねまずはその前にちょっとこっちへ来なさいこれまでのお礼におまえにあげるものがあるんだからね」。

そう言って魔女が手を触れると役立たずの背中や頭の皮がすっかりもとどおりになって長い髪もまた生えそろいましたそれからこの人は目をとじて息を引きとりました役立たずは泣きながら魔女を埋めると子どもたちと家を出てまっすぐに歩いていきました。


著者結社異譚語り
2008年11月24日ページ公開
2011年9月4日最終更新