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それから役立たずは、深い谷へたどりつきました。そこには一軒の家が建っていて、年老いた醜い魔女が、おおぜいのみなしごといっしょに住んでいました。窓のなかをのぞいてみると、魔女は「いそがしい、いそがしい」とぶつくさ言いながら、ひとりで幼い子どもたちみんなの世話をしているところでした。
それを見て、役立たずは「どうかお手伝いさせてください」と言いました。「お願いです、おばあさん。あたし、どこにも行くところがないんです。食べるものと寝るところさえあったら、ほかにはなにもいりません」。
すると魔女は「そんなに言うなら働かせてやるけどね」と言いました。「ただし、なまけたりしたらしょうちしないよ。そのときはおしめにでも変えてやるから覚悟するんだね」。
こうして役立たずは、魔女の家で子守りをすることになりました。もちろん、役立たずのすることはあいかわらず失敗ばかりでしたが、それでも魔女は横から指図をするだけで、けして手をかそうとはしませんでした。そしてどれだけ時間がかかろうと、言いつけた仕事がすっかりかたづくまで、役立たずをゆるしてやることはありませんでした。うっかりきげんをそこねるたびに、子どもたちはこのできの悪い子守りの言うことをちっとも聞かなくなりましたが、いくら仲なおりをしようとためしてみても、前と同じやりかたでは二度とうまくいかないのでした。
そうして暮らすうちに七年が過ぎ、子どもたちもすっかり大きくなりました。その日の朝、いつまでたっても魔女が出てこないので、役立たずは部屋へ呼びに行きました。すると年老いた魔女は、まだベッドによこたわったままでした。そして、やってきた子守りの顔を見ると「いままでよく言うことを聞いて、しっかりと働いてくれたね。だけど、それも今日でおわりだよ」と言いました。「どうやら、わたしはもう死ぬときが来たようだからね」。
それを聞いた役立たずはびっくりして「そんなのいやよ、おばあさん」と叫びました。「お願いだから、あたしを置いていかないで」。
けれども、魔女は首を横に振り「こればっかりは、わたしにもどうしようもないんだよ」と言いました。「でもね、ちっとも心配することはないよ。おまえはもう、子守りなら誰よりじょうずにできるんだからね。ひとりでもちゃんとやっていけるよ」。
「それでも、おばあさんがいなかったらあたし、どうしたらいいかわからないわ」。
「それじゃこうしよう。わたしが死んだら、子どもたちを連れて街へ行きなさい。この家の前の道を、まっすぐ行ったところにあるからね。それから、あの子たちが街で暮らせるように、市長に会って頼むんだよ。この鍵を持っていけば、きっとうまくいくからね。そのあとおまえがどうすればいいのかも、行ってみればちゃんとわかるよ。でもね、まずはその前に、ちょっとこっちへ来なさい。これまでのお礼に、おまえにあげるものがあるんだからね」。
そう言って魔女が手を触れると、役立たずの背中や頭の皮がすっかりもとどおりになって、長い髪もまた生えそろいました。それから、この人は目をとじて息を引きとりました。役立たずは泣きながら魔女を埋めると、子どもたちと家を出てまっすぐに歩いていきました。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |