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それから役立たずは、一本の大きな樫の木の下へたどりつきました。そこには一軒の家が建っていて、年老いた醜い魔女がひとりで住んでいました。窓のなかをのぞいてみると、魔女は「いそがしい、いそがしい」とぶつくさ言いながら、家じゅうをホウキで掃いているところでした。
それを見て、役立たずは「どうかお手伝いさせてください」と言いました。「お願いです、おばあさん。あたし、どこにも行くところがないんです。食べるものと寝るところさえあったら、ほかにはなにもいりません」。
すると魔女は「そんなに言うなら働かせてやるけどね」と言いました。「ただし、なまけたりしたらしょうちしないよ。そのときは雑巾にでも変えてやるから覚悟するんだね」。
こうして役立たずは、魔女の家で掃除係りをすることになりました。もちろん、役立たずのすることはあいかわらず失敗ばかりでしたが、それでも魔女は横から指図をするだけで、けして手をかそうとはしませんでした。そしてどれだけ時間がかかろうと、言いつけた仕事がすっかりかたづくまで、役立たずをゆるしてやることはありませんでした。一日かけてぴかぴかにみがきあげた床の上へ、うっかり汚れた桶の水をぶちまけてしまったときも、このできの悪い掃除係りはたったひとりで、またはじめからきれいにしなおさなければなりませんでした。
そうして暮らすうちに七年が過ぎました。その日の朝、いつまでたっても魔女が出てこないので、役立たずは部屋へ呼びに行きました。すると年老いた魔女は、まだベッドによこたわったままでした。そして、やってきた掃除係りの顔を見ると「いままでよく言うことを聞いて、しっかりと働いてくれたね。だけど、それも今日でおわりだよ」と言いました。「どうやら、わたしはもう死ぬときが来たようだからね」。
それを聞いた役立たずはびっくりして「そんなのいやよ、おばあさん」と叫びました。「お願いだから、あたしを置いていかないで」。
けれども、魔女は首を横に振り「こればっかりは、わたしにもどうしようもないんだよ」と言いました。「でもね、ちっとも心配することはないよ。おまえはもう、掃除なら誰よりじょうずにできるんだからね。ひとりでもちゃんとやっていけるよ」。
「それでも、おばあさんがいなかったらあたし、どうしたらいいかわからないわ」。
「それじゃこうしよう。もしどうしても困ったときは、わたしの妹をたずねてごらん。この家の前の道を、まっすぐ行ったところに住んでるからね。さあほら、そんなことより、もっと近くへ来なさい。これまでのお礼に、おまえにあげるものがあるんだからね」。
そう言って魔女が手を触れると、役立たずの首についていた醜いあざはすっかり消えて、またきれいな肌に戻りました。それから、この人は目をとじて息を引きとりました。役立たずは泣きながら魔女を埋めると、家をあとにしてまっすぐ歩いていきました。
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著者:結社異譚語り | |||
2008年 | 11月 | 24日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |