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異譚メルヘン第四話呪いをかけられた王子さま


そうして暮らしているうちに売りものの薪がたくさんたまってきたので木こりは街で商売をしてくることにきめましたおかみさんと下のふたりの娘もいっしょに行って運ぶのを手伝うことになりましたいちばん上の姉だけはそのあいだひとりで留守番をして家の仕事をかたづけているように言いつけられましたやがて家族が出かけてしまうとこの娘は用心のために家の戸にかんぬきをおろし窓もひとつ残らずしめてしまいましたそうしておけば誰も家へ入ることはできないしなかにいる自分の姿も見られずにすむと考えたのです。

さてその日のお昼を過ぎたころのことですが娘が台所でうたた寝をしていると誰かがたずねてきて家の戸をたたきました目をさました娘が戸のすきまからおもてをのぞいてみるとそこに立っていたのは熊の毛皮をかぶった男でした着ている不潔な毛皮といい伸びほうだいの髪やひげにおおわれた顔といいその汚らしさときたらとても同じ人間とは思えないほどでしたそこで娘はできるだけ低い声をつくって戸はしめたまま誰だい?とたずねましたすると相手は、

お宅のおかみさんの知りあいでね約束のものを受け取りに来たのさここをあけてくれんかねと言うのでしたけれども娘はにべもなく、

おふくろなら今日は出かけていて遅くまで戻らないよそれに悪いけど誰が来ても戸をあけるなと言われているんだと答えました。

わざわざたずねて来たってのにそいつはまったく残念だと男は言いました。ところでおまえさんはやっぱりこの家の娘なんだろうね?」

そこで娘は自分のことはあきらめてもらおうと考えてなにを言ってるんだいおれは男だよと答えてやりましたそれを聞いた熊の毛皮男は、

おまえさんが言うんならもちろんそのとおりなんだろうさいつまでもそのままでいるがいいと言いましたするとそのとたんこの娘はほんとうに男の姿になっていて美しかったおもかげもどこにも残っていませんでしたそれでも娘は自分ではそのことがわからずにもといたところへ戻るとまた眠りこんでしまいました。

やがて夕方になると娘の家族が街から帰ってきましたところがこの人たちは家にいたのが美しい姉ではなくむさくるしい見知らぬ男だったのでおどろきのあまり声も出ませんでした木こりはすっかり腹を立てこのずうずうしいよそものをたたきだそうと壁にかかっていた手斧をつかみましたそして相手がなにを言っても耳をかさずちからずくでそとへ追いだしてしまいましたこうしていちばん上の姉は家を離れてひとりで生きていくよりほかなくなりました。

ところでそのころ街では隠れて教会を否定していた異端者たちがおおぜい見つかって次々と裁判にかけられていましたそしてになる人があんまりたくさんいたので火あぶりにするための薪がちっともたりていませんでしたそんなわけで木こりの持っていった品物は飛ぶように売れたいそういいかせぎになりました家へ戻った木こりほかの薪もいまが売りどきだと考えて次の日も街で商売をすることにきめましたおかみさんといちばん下の娘もいっしょに行って運ぶのを手伝うことになりましたまんなかの姉だけはそのあいだひとりで留守番をして家の仕事をかたづけているように言いつけられましたやがて家族が出かけてしまうとこの娘は用心のために家の戸にかんぬきをおろし窓もひとつ残らずしめてしまいましたそうしておけば誰も家へ入ることはできないしなかにいる自分の姿も見られずにすむと考えたのです。

さてその日のお昼を過ぎたころのことですが娘が台所でうたた寝をしていると誰かがたずねてきて家の戸をたたきました目をさました娘が戸のすきまからおもてをのぞいてみるとそこに立っていたのは熊の毛皮をかぶった男でした着ている不潔な毛皮といい伸びほうだいの髪やひげにおおわれた顔といいその汚らしさときたらとても同じ人間とは思えないほどでしたそこで娘はできるだけ低い声をつくって戸はしめたまま誰だい?とたずねましたすると相手は、

お宅のおかみさんの知りあいでね約束のものを受け取りに来たのさここをあけてくれんかねと言うのでしたけれども娘はにべもなく、

おふくろなら今日は出かけていて遅くまで戻らないよそれに悪いけど誰が来ても戸をあけるなと言われているんだと答えました。

わざわざたずねて来たってのにそいつはまったく残念だと男は言いました。ところでおまえさんはやっぱりこの家の娘なんだろうね?」

そこで娘は自分のことはあきらめてもらおうと考えてなにを言ってるんだいおれは男だよと答えてやりましたそれを聞いた熊の毛皮男は、

おまえさんが言うんならもちろんそのとおりなんだろうさいつまでもそのままでいるがいいと言いましたするとそのとたんこの娘はほんとうに男の姿になっていて美しかったおもかげもどこにも残っていませんでしたそれでも娘は自分ではそのことがわからずにもといたところへ戻るとまた眠りこんでしまいました。

やがて夕方になると娘の家族が街から帰ってきましたところがこの人たちは家にいたのが美しい姉ではなくむさくるしい見知らぬ男だったのでおどろきのあまり声も出ませんでした木こりはすっかり腹を立てこのずうずうしいよそものをたたきだそうと壁にかかっていた手斧をつかみましたそして相手がなにを言っても耳をかさずちからずくでそとへ追いだしてしまいましたこうしてまんなかの姉は家を離れてひとりで生きていくよりほかなくなりました。


著者結社異譚語り
2009年9月21日ページ公開
2011年9月4日最終更新