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異譚メルヘン第四話呪いをかけられた王子さま


やがてふたりが言ったとおりのことがおこなわれましたむさくるしい花嫁たちは豪奢なドレスをはぎ取られすっかりはだかにされましたするとこの人たちがほんとうは男だったことが誰の目にも明らかとなりましたそこへ鉄の乙女像が運ばれてきてふたりはいっしょにそのなかへ押しこめられ前には黒い馬がつながれましたふたつの目玉を抜かれるとこの馬は狂ったように走りだし庭園じゅうをさんざんかけずりまわったので咲いていたばらの花が残らず散ってまっ赤な花びらで地面がすっかりおおわれてしまったほどでしたそれから黒い馬は乙女像を引いたまま城門のそとへ飛びだしていってもう二度と戻ってくることはありませんでした。

そのあとお城ではほんとうのお妃さま王子さまもういちどふたりで結婚式をあげましたところがこの美しい花嫁花婿があんまり凛々しくなってしまったので胸がどきどきしてまっすぐに顔を見ることもできませんでしたそして花婿が口づけを交わそうとするとすっかり赤くなってうつむいてしまうのでしたするとこの花婿かわりに花嫁のおでこに口づけし手を取って踊りに誘いましたそんなわけでふたりが大広間のまんなかで楽しく踊っているとふいに熊の毛皮をかぶった男があらわれて、

おまえさんの兄弟たちのせいで庭園ばらがみんな散ってしまったよまったく困ったことになったもんだと嘆きはじめました。だからおまえさんまた昔のようにあいつらの世話をしてきれいな花を咲かせてくれんかね?」

けれども美しい花嫁いいえできないわと答えました。だってあたしこれから王子さまといっしょに薬草を育てるんだもの」。

わざわざ頼みに来たってのにそいつはまったく残念だと男は言いました。ところでおまえさんはいまやっぱりしあわせなんだろうね?」

そこで花嫁ええとってもとすなおに答えました。いままであたしこの人よりすてきなお婿さんなんていないと思ってたわでもそうじゃなかったの魔女呪いが解けた王子さま昔の千倍もすてきになってしまったんだものもうあたしほかに望むことなんてひとつもないわ」するとそれを聞いた熊の毛皮男は、

おまえさんが言うんならもちろんそのとおりなんだろうさいつまでもそのままでいるがいいと言いましたそんなわけでこのお城ではいまもまだ結婚式がつづけられていて美しいお妃さまとすてきな王子さまあいかわらずしあわせに踊りまわっているということです。


著者結社異譚語り
2009年9月21日ページ公開
2011年9月4日最終更新