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異譚メルヘン第四話呪いをかけられた王子さま


さてその次の夜も王子さま寝室へ向かうあいだに花嫁たちの手を振りはらうと、

わたしの前は明るくなって後ろは暗くなりなさいゆくえが誰にもわからぬように」

と言いましたそこで花嫁たちは王子さまの姿を見うしないようやく寝室へやってきたときにはもう小部屋の戸はかたくとざされてしまったあとでしたそんなわけでこの人たちがもういちど戸をやぶろうとしているとまた寝室の扉をたたく音がして雪のように白いきれいな白鳥王子さま呪いを解くためにいらっしゃったよという声が聞こえてくるのでしたむさくるしい花嫁たちはうんざりして、

いくら来ようとむだなのにまったくしつこいやつだ追いはらっても戻ってくるというのなら捕まえて檻のなかへ入れてしまおうと考えるとそろって廊下へと出てきましたそして網や縄を振りまわしやってきた白鳥を捕まえようとしましたところがきれいな白鳥いくら追いつめたと思ってもそのたびに翼をひろげて舞いあがり手の届かないところへ飛んでいってしまうのでしたそこでふたりの花嫁たちはひと晩じゅうそのあとを追いまわしつづけそれでもやっぱり捕まえることができませんでしたけれどもけなげな白鳥のほうもまた王子さまのいる小部屋に近づくことはかないませんでしたやがて夜が明けはじめると朝日をあびた白鳥の姿はぼんやりとかすんでいきほどなくすっかり消えてしまいました。

さてその次の夜も王子さままたしても花嫁たちの手を振りはらうと、

わたしの前は明るくなって後ろは暗くなりなさいゆくえが誰にもわからぬように」

と言いましたそこで花嫁たちの目は闇にとざされ王子さまが小部屋へ逃げこむのをとめることができませんでしたそんなわけでこの人たちがこんどこそ花婿の部屋に押し入ろうとしているとやっぱり寝室の扉がたたかれ雪のように白いきれいな白鳥王子さま呪いを解くためにいらっしゃったよという声がするのでしたむさくるしい花嫁たちはすっかり腹を立て、

憎たらしい白鳥どうあってもおれたちと王子さまのじゃまをするつもりか追いつめても捕まえることができないのならあとはもう殺してしまうよりほかにないなと考えるとおそろしい顔で廊下へと出てきましたそして剣や弓を振りかざしやってきた白鳥におそいかかりましたところがきれいな白鳥いくら切りつけたり射かけたりしてみてもそのたびにするりと身をかわし一枚の羽根もそこなわれることがありませんでしたそこで花嫁たちはすっかりむきになり頭にがのぼってまわりが見えなくなってしまったので白鳥をめがけて振りおろした剣があやうくもうひとりの花嫁の首をはねそうになったりこんどはその花嫁の放った矢がもう少しではじめの花嫁の心臓をつらぬきそうになったりするしまつでした。


著者結社異譚語り
2009年9月21日ページ公開
2011年9月4日最終更新