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さて、その次の夜も王子さまは、寝室へ向かうあいだに花嫁たちの手を振りはらうと、
「わたしの前は明るくなって、後ろは暗くなりなさい。ゆくえが誰にもわからぬように」
と言いました。そこで花嫁たちは王子さまの姿を見うしない、ようやく寝室へやってきたときには、もう小部屋の戸はかたくとざされてしまったあとでした。そんなわけで、この人たちがもういちど戸をやぶろうとしていると、また寝室の扉をたたく音がして「雪のように白いきれいな白鳥が、王子さまの呪いを解くためにいらっしゃったよ」という声が聞こえてくるのでした。むさくるしい花嫁たちはうんざりして、
「いくら来ようとむだなのに、まったくしつこいやつだ。追いはらっても戻ってくるというのなら、捕まえて檻のなかへ入れてしまおう」と考えると、そろって廊下へと出てきました。そして網や縄を振りまわし、やってきた白鳥を捕まえようとしました。ところがきれいな白鳥は、いくら追いつめたと思っても、そのたびに翼をひろげて舞いあがり、手の届かないところへ飛んでいってしまうのでした。そこでふたりの花嫁たちは、ひと晩じゅうそのあとを追いまわしつづけ、それでもやっぱり捕まえることができませんでした。けれども、けなげな白鳥のほうもまた、王子さまのいる小部屋に近づくことはかないませんでした。やがて夜が明けはじめると、朝日をあびた白鳥の姿はぼんやりとかすんでいき、ほどなくすっかり消えてしまいました。
さて、その次の夜も王子さまは、またしても花嫁たちの手を振りはらうと、
「わたしの前は明るくなって、後ろは暗くなりなさい。ゆくえが誰にもわからぬように」
と言いました。そこで花嫁たちの目は闇にとざされ、王子さまが小部屋へ逃げこむのをとめることができませんでした。そんなわけで、この人たちがこんどこそ花婿の部屋に押し入ろうとしていると、やっぱり寝室の扉がたたかれ「雪のように白いきれいな白鳥が、王子さまの呪いを解くためにいらっしゃったよ」という声がするのでした。むさくるしい花嫁たちはすっかり腹を立て、
「憎たらしい白鳥め、どうあってもおれたちと王子さまのじゃまをするつもりか。追いつめても捕まえることができないのなら、あとはもう殺してしまうよりほかにないな」と考えると、おそろしい顔で廊下へと出てきました。そして剣や弓を振りかざし、やってきた白鳥におそいかかりました。ところがきれいな白鳥は、いくら切りつけたり射かけたりしてみても、そのたびにするりと身をかわし、一枚の羽根もそこなわれることがありませんでした。そこで花嫁たちはすっかりむきになり、頭に血がのぼってまわりが見えなくなってしまったので、白鳥をめがけて振りおろした剣が、あやうくもうひとりの花嫁の首をはねそうになったり、こんどはその花嫁の放った矢が、もう少しではじめの花嫁の心臓をつらぬきそうになったりするしまつでした。
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著者:結社異譚語り | |||
2009年 | 9月 | 21日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |