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異譚メルヘン第四話呪いをかけられた王子さま


そんなある日のこといつものように庭園へやってきた娘はたくさんの葉の下に隠れてひそかに伸びていたばらの根に気がつかず足を取られて転んでしまいました倒れこんださきには棘だらけの枝をひろげたばらのしげみが待ちかまえていて憎たらしい世話係りのからだじゅうを思うぞんぶんに刺しましたそこで娘はお城の台所のわきにある井戸のところまで走っていってあふれてくると涙を洗い流さなければなりませんでした。

するとそこへ王さまのひとり息子がとおりかかって泣いている娘の姿を目にしましたその白い肌に刻まれた傷口があんまり深かったので王子さまはおどろいてこれはひどいすぐに手当てをしなければさあ君わたしにつかまってと言うとそっと娘を抱きかかえお城の裏手にある広場へと連れていきましたそこにはあらゆる種類の薬草が生えていて傷に効くハーブもたくさんあったのですそれから王子さまあちこちから薬草をつんでくるとシャツを裂いて包帯をつくり娘のけがをひとつずつ手当てしていきましたこの人がやさしく薬草をあてて包帯を巻くたびにひらいていた傷口はぴったりとふさがり流れていたもきれいにとまるのでした。

そんなわけでやがて手当てがみんなすむと娘は涙をふいて立ちあがりありがとうございました王子さまあたしもう平気です早く仕事に戻らないとと言いおじぎをして庭園へ帰ろうとしました。

ところが王子さまそんな娘を引きとめてむりをしなくていいんだよかわいそうに君は傷だらけじゃないかと言いました。これはきっと庭園ばらたちのしわざだねそれも新しい傷ばかりじゃなかったずっと前からこんな目にあっていたんだよねねえ君そこまでしてばらの世話をつづけることはないんだよ」。

けれども娘は首を横に振りいいえ王子さまあたしがこのお城にいられるのはばらの花美しく咲かせることができるからですこの服も宝石も仕えてくれる侍女たちも広い部屋もみんなそのためにいただきましたもしこの仕事をしないのならあたしにはなにもありませんと答えました王子さまもそれを聞いて、

わかったそれが君の望みならわたしはもうとめないよと言いました。でもねせめてこの傷がきちんとなおるまではばらの世話はやすみなさいそれくらいはかまわないよね? 父上と庭番にはわたしが話をしておくから」。

それでも娘は返事に困りええでも……そのあいだあたしはどうしていたらよいのでしょうこうしてちゃんと働けるのになにもしないでやすんでいるとしたらまわりの人たちがどう思うことかと答えずにはいられませんでしたすると王子さまは、

それもそうだねではもしよかったらそのあいだわたしの手伝いを頼めるだろうかとたずねたのでした。わたしはいつもここへ来ていろいろな薬草を育てているんだけどあんまりたくさん増えてしまったものだからひとりだと少し手がたりなくてねちょうど誰かの助けがほしいと思っていたところなんだそれに君が来てくれればさっきの薬草をこまめに取りかえてあげられるからそれだけ早く傷をなおせるよ」。


著者結社異譚語り
2009年9月21日ページ公開
2011年9月4日最終更新