◆ Märchen << HKM4 < i ii iii iv v vi vii viii ix x xi xii xiii
ところで王子さまはといえば、そのあいだずっと小部屋のなかにひとりきりで、いっしんに祈りつづけていました。やがて夜が明けはじめると、天窓からひとすじの光がさしこんできて、その美しい顔を照らしました。それは、むさくるしい花嫁たちとの結婚式から数えて三度目の朝日でした。するとそのとたん、長いこと王子さまを呪いつづけていた魔法は解け、この人はまぎれもなく男の姿に戻っていました。目をあけた王子さまは、いそいでかたわらの剣をつかむと、部屋のそとへと飛びだしていきました。そこには雪のように白いきれいな白鳥がいて、朝日をあびて姿がかすみ、いまにも消えそうになっていました。けれども、王子さまがすばやく剣を抜いてその首をはねると、白鳥はもとの姿を取り戻し、美しいほんとうのお妃さまに変わりました。生き返ったお妃さまは、まるでなにごともなかったかのようにすこやかで、一本の髪の毛もそこなわれていませんでした。ふたりは心の底からよろこんで、泣きながら手と手を取りあい、もう二度と離れることはありませんでした。
いっぽうそのころ、あのむさくるしい花嫁たちは、白鳥の姿を見うしない、手わけしてあたりをさがしまわっていました。すると若いほうの花嫁は、窓のそとにある大きな木に、夜のように黒いからすがびっしりととまっているところを目にしました。その醜いからすたちは、どれも耳ざわりな声でやかましく騒いでいて、そのうちの一羽が、
「新しい花嫁の妹のほうが殺されるよ!」
と叫んでいるかと思えば、また別の一羽は、
「新しい花嫁の姉のほうは、美しい王子さまもこの国も、みんな自分だけでひとりじめにしたいと思ってるんだよ!」
と叫んでいるのでした。それを聞いた醜い花嫁はびっくりして「なんてことだ。まさかあいつが、このおれを殺そうとたくらんでいたとは」と言いました。「だがたしかに、あいつだったらやりかねないぞ。考えてみれば、さっきおれのほうに切りかかってきたのも、ねらいをはずしたように見せかけていただけで、ほんとうはわざとだったにちがいない」。
それからこの人は、もうひとりの花嫁がいまも自分を殺そうとしているかと思うと、こわくてたまらなくなりました。するとそこへ、熊の毛皮をかぶった男がとおりかかったので、むさくるしい花嫁はあわてて呼びとめ「そこのおまえ、私のことを護衛して、兵たちのところへ連れていきなさい。私は命をねらわれているのです」と言いました。そこで熊の毛皮男は、命令どおりこの人のさきに立って歩きながら、
「ところでおまえさん、自分の姉妹を殺して大事なものを横取りするような人間には、どんな罰がふさわしいと思うかね?」とたずねました。それを聞いた醜い花嫁は、
「そんな悪人は、服を脱がせてまるはだかにし、内側に長いくぎがつきだしている鉄の乙女像のなかへ入れてやらなければなりません。乙女像には目玉をくり抜いた馬をつなぎ、死ぬまで引きまわさせるのです」と答えました。すると熊の毛皮男は、
「そいつはおまえさんのことだ!」と言いました。「つまりおまえさんは、自分で自分に裁きをくだしたのだ。だからそのとおりにしてやろう」。
その言葉がおわるやいなや、男はものすごいちからで花嫁につかみかかると、あっというまに縛りあげ、お城の庭へと引きずっていきました。そこにはすでに、おおぜいの衛兵たちにかこまれて、年上のほうの花嫁が捕らえられていました。それというのも、この人もまた同じように、姉妹を殺すような悪人は服を脱がせて鉄の乙女像につめるべきだ、と熊の毛皮男に答えていたのです。
Home <<< Mächen << HKM4 < ? ← Page. 12 / 13 → ↑
著者:結社異譚語り | |||
2009年 | 9月 | 21日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |