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異譚メルヘン第四話呪いをかけられた王子さま


ところで王子さまはといえばそのあいだずっと小部屋のなかにひとりきりでいっしんに祈りつづけていましたやがて夜が明けはじめると天窓からひとすじの光がさしこんできてその美しい顔を照らしましたそれはむさくるしい花嫁たちとの結婚式から数えて三度目の朝日でしたするとそのとたん長いこと王子さま呪いつづけていた魔法は解けこの人はまぎれもなく男の姿に戻っていました目をあけた王子さまいそいでかたわらの剣をつかむと部屋のそとへと飛びだしていきましたそこには雪のように白いきれいな白鳥がいて朝日をあびて姿がかすみいまにも消えそうになっていましたけれども王子さまがすばやく剣を抜いてその首をはねると白鳥はもとの姿を取り戻し美しいほんとうのお妃さまに変わりました生き返ったお妃さままるでなにごともなかったかのようにすこやかで一本の髪の毛もそこなわれていませんでしたふたりは心の底からよろこんで泣きながら手と手を取りあいもう二度と離れることはありませんでした。

いっぽうそのころあのむさくるしい花嫁たちは白鳥の姿を見うしない手わけしてあたりをさがしまわっていましたすると若いほうの花嫁窓のそとにある大きな木に夜のように黒いからすがびっしりととまっているところを目にしましたその醜いからすたちはどれも耳ざわりな声でやかましく騒いでいてそのうちの一羽が、

新しい花嫁の妹のほうが殺されるよ!」

と叫んでいるかと思えばまた別の一羽は、

新しい花嫁の姉のほうは美しい王子さまもこの国もみんな自分だけでひとりじめにしたいと思ってるんだよ!」

と叫んでいるのでしたそれを聞いた醜い花嫁はびっくりしてなんてことだまさかあいつがこのおれを殺そうとたくらんでいたとはと言いました。だがたしかにあいつだったらやりかねないぞ考えてみればさっきおれのほうに切りかかってきたのもねらいをはずしたように見せかけていただけでほんとうはわざとだったにちがいない」。

それからこの人はもうひとりの花嫁がいまも自分を殺そうとしているかと思うとこわくてたまらなくなりましたするとそこへ熊の毛皮をかぶった男がとおりかかったのでむさくるしい花嫁はあわてて呼びとめそこのおまえ私のことを護衛して兵たちのところへ連れていきなさい私は命をねらわれているのですと言いましたそこで熊の毛皮男命令どおりこの人のさきに立って歩きながら、

ところでおまえさん自分の姉妹を殺して大事なものを横取りするような人間にはどんな罰がふさわしいと思うかね?とたずねましたそれを聞いた醜い花嫁は、

そんな悪人は服を脱がせてまるはだかにし内側に長いくぎがつきだしている鉄の乙女像のなかへ入れてやらなければなりません乙女像には目玉をくり抜いた馬をつなぎ死ぬまで引きまわさせるのですと答えましたすると熊の毛皮男は、

そいつはおまえさんのことだ!と言いました。つまりおまえさんは自分で自分に裁きをくだしたのだだからそのとおりにしてやろう」。

その言葉がおわるやいなや男はものすごいちからで花嫁につかみかかるとあっというまに縛りあげお城の庭へと引きずっていきましたそこにはすでにおおぜいの衛兵たちにかこまれて年上のほうの花嫁が捕らえられていましたそれというのもこの人もまた同じように姉妹を殺すような悪人は服を脱がせて鉄の乙女像につめるべきだ熊の毛皮男に答えていたのです。


著者結社異譚語り
2009年9月21日ページ公開
2011年9月4日最終更新