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異譚メルヘン第四話呪いをかけられた王子さま


やがてまた夜になり寝室でやすむ時間が来ると王子さま花嫁今夜のことだけどもういちどだけ別々に眠ってほしいんだと言いましたそれを聞いたお妃さまは、

ねえ王子さまあなたはほんとうにあたしと結婚したかったの?とたずねました。薬草たちの世話を手伝うだけでよかったのならわざわざお妃さまにしてくれなくたってあたしよろこんでやったのに」。

けれども王子さまどうかそんなことを言わないでわたしだってほんとうはひと晩じゅう君のとなりにいたいと思ってるだけどこれはわたしたちにとってすごく大切なことなんだもう二度と君をひとりにしないと誓うから今夜だけは言うとおりにしてくれないかと答えるばかりでどうあってもゆずろうとはしませんでしたそこでやっぱりお妃さまも、

あなたがそこまで言うのならと答え頼みを聞くよりほかありませんでしたすると王子さま花嫁の頬におやすみの口づけをしてひとりで小部屋へ行ってしまいましたお妃さまは明かりを消してベッドによこたわりましたが明日もまたあのご婦人がたに笑われてしまうのかと思うとかたときも心がやすまらずどうしても寝つくことができませんでした長いことそうしているうちにやがてお妃さまいったい王子さまがひとりでなにをしているのかどうしても気になってしかたなくなりましたそしてもう小部屋の戸の前まで行って鍵穴からなかをのぞいて見ずにはいられませんでしたするとあの美しい王子さま寝間着姿でベッドのそばにひざまづき胸の前で手を組んで目をとじて祈っているところが見えましたところがその姿はどこから見ても女の人でしたお妃さまがそれを目にしたとたんかかっていた鍵が音をたててはずれ小部屋の戸がひとりでにひらきましたお妃さまはびっくりしてねえ王子さまあなたなの?とたずねましたその女の人は顔をあげてお妃さまを見るとおおつぶの涙をぽろぽろとこぼして、

わたしだよと答えましたそしてほんとうの姿を知られたからにはもうこの結婚をつづけていくことはできないねやっぱりわたしは死ぬまでひとりきりで生きていくしかないみたいだと言うと両手で顔をおおって泣きくずれてしまいましたけれどもお妃さまそんな女の人をやさしくなぐさめ、

かわいそうにあなたはずっとむりをして男のかっこうをつづけてきたのねだけどもうあなたひとりで苦しまなくていいのこんどはあたしがあなたのちからになるからと言いましたそこで女の人もお妃さまにすっかりわけを話しましたこの人は生まれたときにはまぎれもなく男の子でしたが王国を横取りしようとねらっていた魔女たちに呪いをかけられて女の子の姿へと変えられてしまったのですところが王さまそれでもこの子に国を継がせたくてお姫さまではなく王子さまとして育てさせたのでしたそれから月日は流れあれほど国じゅうを荒らしまわっていた魔女たちもいつしかさっぱり見かけなくなってしまいましたがこの人はあいかわらず女のままでしたこの人が呪いを解くためには誰かと結婚してから三晩のあいだ姿を見られずにひとりっきりで祈り明かさなければならなかったのです。

それを聞いたお妃さまああなんていうことでしょうと嘆かずにはいられませんでした。あとほんの少しであなたはもとに戻れていたはずだったのにまさかあたしがそのじゃまをしてしまったなんて」。

けれども女の人は首を振り君のせいなんかじゃないよと言いました。隠さずにきちんと話しておけばこんなことにはならなかったんだものだけどほんとうは男じゃないとわかったら君はきっとがっかりしてやっぱりわたしから離れていってしまったことだろうね」。

ところがお妃さまそんなことないわときっぱり答えました。だってあたしお妃さまになりたかったわけじゃないものあなたといっしょに過ごしているとあたしの心もきれいに澄んでいやなことはみんな忘れてしまえるのだからあたしあなたという人を好きになったのよその気もちはいまでもやっぱり変わってないわほんとうは女の人だったからってあなたはあなたのままだものそばを離れたいなんて思うはずがないわ」それからお妃さま女の人のまぶたにそっと口づけするとふるえるその肩を抱きしめてさあもう泣かないで呪いを解く方法ならきっとまだほかにもあると思うのあたしいつまでだって待てるわだって相手があなたでないのなら結婚なんてちっともする気になれないんだものだからこれからもずっとふたりで生きていきましょうと言ったのですそこで女の人も、

君がそう言ってくれてすごくうれしいよだってわたしもこんなに君のことが好きなんだものいつの日かきっと君のほんとうの王子さまになってみせるからねと答えたのでした。


著者結社異譚語り
2009年9月21日ページ公開
2011年9月4日最終更新