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こうなってしまっては、王子さまにはどうすることもできず、義兄たちの言いなりになるよりほかありませんでした。そこでお城では、王子さまと新しいお妃さまたちの結婚式がおこなわれることになりました。うつむいて涙をこらえている美しい花婿をよそに、むさくるしい花嫁たちはおおよろこびで、きらびやかなドレスを見せつけてまわって得意になっていました。やがて夜もふけると、あつまっていた人たちに見送られ、王子さまと新しいお妃さまたちは大広間をあとにしました。ところがこの美しい花婿は、寝室へ向かうあいだに醜い花嫁たちの手を振りはらうと、
「わたしの前は明るくなって、後ろは暗くなりなさい。ゆくえが誰にもわからぬように」
と言いました。するとその言葉のとおり、花嫁たちには王子さまの姿が見えなくなって、どこへ消えたのか見当もつきませんでした。そのあいだに王子さまは、ひとりでさきに寝室へ戻ると、小部屋へかけこんで鍵をしめてしまいました。それでも花嫁たちは、城じゅうをしつこくさがしてまわり、とうとう寝室までやってきました。そして鍵のかかった戸を見つけると、猫なで声で王子さまのことを呼び、なんとかそこをあけさせようとしました。けれども美しい王子さまは、返事もしなければ出てくることもありませんでした。そこで花嫁たちは、こうなったからにはちからずくで言うことを聞かせてやろうと考えて、大きな斧を振るって小部屋の戸をこわしはじめました。
ところでそのころ、お城の台所にいた熊の毛皮男は、雪のように白い一羽の白鳥が飛んできて、窓から部屋へ入ってくるのを目にしました。その白鳥が、
「あたしの王子さまはどうしているの?」
とたずねるので、熊の毛皮男は、
「ご自分のお部屋にこもって、ひとりでお祈りをしてらっしゃるよ」
と答えました。すると白鳥はまた、
「むさくるしい花嫁たちはどうしているの?」
とたずねるので、熊の毛皮男は、
「おまえさんの寝室で、恥知らずなことをたくらんでるね」
と答えました。それを聞いた白鳥は、
「花嫁たちのところへ行って、あたしが王子さまの呪いを解きに来たと伝えてちょうだい」
と頼みました。そこで熊の毛皮男は、言われたとおりに寝室へ向かうと、扉をたたいて「雪のように白いきれいな白鳥が、王子さまの呪いを解くためにいらっしゃったよ」と伝えました。むさくるしい花嫁たちはびっくりして、
「王子さまが男に戻ってしまったら、おれたちとの結婚はおしまいだぞ。あいつをものにする前に、そのいまいましい白鳥とやらを追いはらわなければ」と考えると、あわてて廊下へと出てきました。そして白鳥がやってくるのを目にすると、ふたりして太い腕を振りまわし、窓からそとに追いだしてしまいました。するときれいな白鳥は、こんどはお城の屋根をこえて庭のほうへ飛んでいったので、花嫁たちもいそいでバルコニーへ出て、王子さまのいる小部屋の窓に近づけないようにしなければなりませんでした。それからもこの白鳥は、いくら追いはらわれてもけしてあきらめず、王子さまのもとをめざして舞い戻ってくるのでした。そこでふたりの花嫁たちは、ずっとそのあとを追いまわしつづけ、とうとうひと晩じゅう寝室には戻れませんでした。けれども、けなげな白鳥のほうもまた、いとしい王子さまに会うことはかないませんでした。やがて夜が明けはじめると、朝日をあびた白鳥の姿はぼんやりとかすんでいき、ほどなくすっかり消えてしまいました。
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著者:結社異譚語り | |||
2009年 | 9月 | 21日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |