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異譚メルヘン第四話呪いをかけられた王子さま


こうなってしまっては王子さまにはどうすることもできず義兄たちの言いなりになるよりほかありませんでしたそこでお城では王子さまと新しいお妃さまたちの結婚式がおこなわれることになりましたうつむいて涙をこらえている美しい花婿をよそにむさくるしい花嫁たちはおおよろこびできらびやかなドレスを見せつけてまわって得意になっていましたやがて夜もふけるとあつまっていた人たちに見送られ王子さまと新しいお妃さまたちは大広間をあとにしましたところがこの美しい花婿寝室へ向かうあいだに醜い花嫁たちの手を振りはらうと、

わたしの前は明るくなって後ろは暗くなりなさいゆくえが誰にもわからぬように」

と言いましたするとその言葉のとおり花嫁たちには王子さまの姿が見えなくなってどこへ消えたのか見当もつきませんでしたそのあいだに王子さまひとりでさきに寝室へ戻ると小部屋へかけこんで鍵をしめてしまいましたそれでも花嫁たちはじゅうをしつこくさがしてまわりとうとう寝室までやってきましたそして鍵のかかった戸を見つけると猫なで声で王子さまのことを呼びなんとかそこをあけさせようとしましたけれども美しい王子さま返事もしなければ出てくることもありませんでしたそこで花嫁たちはこうなったからにはちからずくで言うことを聞かせてやろうと考えて大きな斧を振るって小部屋の戸をこわしはじめました。

ところでそのころお城の台所にいた熊の毛皮男雪のように白い一羽の白鳥が飛んできて窓から部屋へ入ってくるのを目にしましたその白鳥が、

あたしの王子さまはどうしているの?」

とたずねるので熊の毛皮男は、

ご自分のお部屋にこもってひとりでお祈りをしてらっしゃるよ」

と答えましたすると白鳥はまた、

むさくるしい花嫁たちはどうしているの?」

とたずねるので熊の毛皮男は、

おまえさんの寝室で恥知らずなことをたくらんでるね」

と答えましたそれを聞いた白鳥は、

花嫁たちのところへ行ってあたしが王子さま呪いを解きに来たと伝えてちょうだい」

と頼みましたそこで熊の毛皮男言われたとおりに寝室へ向かうと扉をたたいて雪のように白いきれいな白鳥王子さま呪いを解くためにいらっしゃったよと伝えましたむさくるしい花嫁たちはびっくりして、

王子さまが男に戻ってしまったらおれたちとの結婚はおしまいだぞあいつをものにする前にそのいまいましい白鳥とやらを追いはらわなければと考えるとあわてて廊下へと出てきましたそして白鳥がやってくるのを目にするとふたりして太い腕を振りまわし窓からそとに追いだしてしまいましたするときれいな白鳥こんどはお城の屋根をこえて庭のほうへ飛んでいったので花嫁たちもいそいでバルコニーへ出て王子さまのいる小部屋の窓に近づけないようにしなければなりませんでしたそれからもこの白鳥いくら追いはらわれてもけしてあきらめず王子さまのもとをめざして舞い戻ってくるのでしたそこでふたりの花嫁たちはずっとそのあとを追いまわしつづけとうとうひと晩じゅう寝室には戻れませんでしたけれどもけなげな白鳥のほうもまたいとしい王子さまに会うことはかないませんでしたやがて夜が明けはじめると朝日をあびた白鳥の姿はぼんやりとかすんでいきほどなくすっかり消えてしまいました。


著者結社異譚語り
2009年9月21日ページ公開
2011年9月4日最終更新