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異譚メルヘン第四話呪いをかけられた王子さま


こうしてお城ではふたりの結婚式がたいそう盛大におこなわれましたやがて夜もふけるとあつまっていた人たちに見送られ王子さまと若いお妃さまは大広間をあとにしましたところでこの美しい花婿寝室で花嫁とふたりきりになるとこのあとのことだけどひとつわがままをゆるしてもらえるだろうかとたずねるのでした。今夜はね別々に眠りたいと思っているんだ」。

それを聞いたお妃さまきっとこの花婿はとてもつつしみ深い人なのだと考えてええかまわないわと答えましたすると王子さまは、

勝手を言ってごめんねわたしは奥の部屋でやすむけどどうか朝までそっとしておいてほしいたとえなにがあったとしてもようすを見に来たり戸をあけたりしてはいけないよと言いましたそしていとしい花嫁の頬におやすみの口づけをすると奥の小部屋へ入って戸をしめてしまいましたそこでお妃さまも明かりを消して広いベッドにひとりで眠りにつきました。

さて次の日もお城ではまだ婚礼のおいわいがつづけられていました大広間には王族貴族のご婦人がたがあつまって若いお妃さまのことを待ちかまえていましたこの人たちは自分たちの新しいお仲間と早くお近づきになりたかったのですそしてお妃さまが姿をあらわすとみんなでまわりを取りかこみあれこれと話を聞きたがりましたとりわけご婦人がたはあの美しい王子さまがなぜ結婚する気になったのかどうしてもふしぎでなりませんでしたそれというのもこれまでどんなに美しいお姫さまけして王子さまの気を引くことができず誰ひとりとして親しくなれたものはいなかったからです。

そうしておしゃべりをしているうちにやがてみんなは口をそろえて王子さまが昨日の夜どんなようすだったのかとたずねましたそこでお妃さまあたしたち昨日は別々の部屋でやすみましただから王子さまがどうしていたのかはわかりませんと答えましたするとご婦人がたはおどろいて顔を見あわせそれからおかしそうにくすくすとしのび笑いをもらしたのでお妃さまはひどく恥ずかしい思いをしなければなりませんでした。

ところでその夜も王子さま寝室で花嫁とふたりきりになるとこのあとのことだけど今夜もまた別々に眠ってくれるだろうかと言うのでしたそれを聞いたお妃さまは、

ねえ王子さまそれはどうしてなの? わけがあるなら教えてとたずねましたけれども美しい王子さまは、

いまはまだ君には話せないんだよでもねどうしてもそうしなければならないんだわたしのことを愛してくれているのならどうかなにも聞かずにゆるしてはもらえないだろうかと答えるばかりでけしてわけを言おうとはしませんでしたそこでとうとうお妃さまも、

わかったわと答えるよりほかありませんでしたするとこの美しい王子さま花嫁の頬におやすみの口づけをして奥の小部屋へと姿を消しましたそしてお妃さままたひとりっきりで眠りにつきました。

さてそのまた次の日も大広間にはやっぱりあのご婦人がたがあつまっていましたこの人たちはこんどこそ若いお妃さま美しい王子さまどんな夜を過ごしたのか聞けると思っていましたそこでお妃さまあたしたち昨日はいっしょにやすみました王子さまあたしのことをやさしく抱きしめてくれましたとうそをつきましたけれどもご婦人がたはそんな言葉ではちっとも満足せずにもっとくわしい話が聞けるまでけしてゆるしてくれませんでしたお妃さまはそれに答えることができずうそをついたことがわかってしまい昨日よりもいっそう恥ずかしい目にあいました。


著者結社異譚語り
2009年9月21日ページ公開
2011年9月4日最終更新