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異譚メルヘン第四話呪いをかけられた王子さま


ところでその日も街ではまた新たな異端者たちが告発されそこかしこで捕らえられていました家にはまだ薪があったので木こりはさらに次の日も街で商売をすることにきめましたこんどはおかみさんだけがいっしょに行って運ぶのを手伝うことになりましたいちばん下の妹はそのあいだひとりで留守番をして家の仕事をかたづけているように言いつけられましたけれどもおかみさんはもし熊の毛皮男がこの子を連れに来たらと思うと心配のあまり胸がはり裂けそうでしたそれというのも末の娘はまだ幼くよそへやるなんてどう考えたって早すぎたからですそこで出かける前に娘を呼ぶといいかいわたしたちが戻るまで誰が来ても戸をあけるんじゃないよかんぬきをきちんとかけて窓もみんなしめておきなさいと言い聞かせておきましたそんなわけで末娘は両親がいなくなるとすぐに家の戸にかんぬきをおろし窓もひとつ残らずしめてしまいました。

さてその日のお昼を過ぎたころのことですが娘が台所でうたた寝をしていると誰かがたずねてきて家の戸をたたきました目をさました娘は母親の言いつけを思いだし戸はあけずにどなた?とたずねましたすると相手は、

お宅のおかみさんの知りあいでね約束のものを受け取りに来たのさここをあけてくれんかねと言うのでしたけれども娘は正直に、

母さまなら今日は出かけてて遅くまで戻らないわそれにあたし誰が来ても戸をあけちゃいけないって言われてるのと答えました。

わざわざたずねて来たってのにそいつはまったく残念だとその人は言いました。ところでおまえさんはやっぱりこの家の娘なんだろうね?」

そこで娘はええそうよあたしはいちばん下の妹なのとすなおに答えましたそれを聞いたお客さんは、

おまえさんが言うんならもちろんそのとおりなんだろうさいつまでもそのままでいるがいいと言いました。それじゃ今日はこれで失礼するがひとつ頼まれてくれんかね? おかみさんが帰ってきたら森で会った男と約束したものをいつ渡してくれるのかって聞いといてほしいんだがね」。

末の娘はこの人がむだ足を踏んでしまったことを気のに思ってわかったわとこころよく答えました。あたしあとでちゃんと聞いておくね」それからもといたところへ戻るとまた眠りこんでしまいました。

やがて夕方になると両親が街から帰ってきましたところが娘は昼間うちへ来たお客さんのことを寝ているあいだにすっかり忘れてしまっていましたそこで母親の顔を見てもなにもたずねることはありませんでした。

ところで街ではあいかわらず異端者たちがひっきりなしに牢獄へ送りこまれきびしく取りしらべられていました木こりは残り少ない薪をかきあつめ次の日も街で商売をしてくることにきめましたこんどもおかみさんがいっしょに行って手伝い末の娘はひとりで留守番をすることになりました両親が出かけてしまうと娘は昨日と同じように家の戸にかんぬきをおろし窓もみんなしめておきました。

するとお昼を過ぎたころまたお客さんがやってきて家の戸をたたきました娘はやっぱり戸をあけないでどなた?とたずねましたすると相手は、

昨日の娘さんだねおかみさんはなんて答えてた?と聞くのでしたそこで娘はようやく頼まれていたことを思いだし、

あらごめんなさいあたし聞くのを忘れちゃったのと答えましたその言葉を耳にしたお客さんは腹を立ててちからいっぱい戸をたたいたので家じゅうの壁という壁がぐらぐらゆれてもう少しで倒れてくるところでしたそれからこの人は、

今回ばかりは大目に見るがもしまた聞くのを忘れたりしたらこの家をぺちゃんこにつぶしておまえさんの家族もみんな引き裂いてしまうからなと言いました。

そんなわけでやがて母親が帰ってくると末の娘はまっさきに今日ね母さまの知りあいだっていう人がうちへ来たのと言いました。それでね森で会った男と約束したものをいつ渡してくれるのかって聞いてたわ」。

母親はびっくりしてこんどまたその人が来たら聞くのを忘れたって答えるのよと教えましたけれども娘は、

それがだめなのと答えました。その人ね昨日も来て同じことを聞いてったのでもあたしそのときはほんとうに忘れちゃったのよだからその人はものすごく怒っててもしまた聞き忘れたりしたらこのうちをぺちゃんこにつぶしてあたしたちのことを引き裂いてしまうって言ってたわ」。

それを聞いて母親もこれはもうどうしようもないと考えましたそこで娘を抱きしめて口づけすると採れたばかりの野いちごをやって言いました。それじゃあねその人にはこう答えるんだよどうぞ約束のものをお取りくださいってね」。


著者結社異譚語り
2009年9月21日ページ公開
2011年9月4日最終更新