◆ Märchen << HKM4 < i ii iii iv v vi vii viii ix x xi xii xiii
ところで、その日も街では、また新たな異端者たちが告発され、そこかしこで捕らえられていました。家にはまだ薪があったので、木こりはさらに次の日も、街で商売をすることにきめました。こんどはおかみさんだけがいっしょに行って、運ぶのを手伝うことになりました。いちばん下の妹は、そのあいだひとりで留守番をして、家の仕事をかたづけているように言いつけられました。けれどもおかみさんは、もし熊の毛皮男がこの子を連れに来たらと思うと、心配のあまり胸がはり裂けそうでした。それというのも、末の娘はまだ幼く、よそへやるなんてどう考えたって早すぎたからです。そこで、出かける前に娘を呼ぶと「いいかい、わたしたちが戻るまで、誰が来ても戸をあけるんじゃないよ。かんぬきをきちんとかけて、窓もみんなしめておきなさい」と言い聞かせておきました。そんなわけで末娘は、両親がいなくなるとすぐに、家の戸にかんぬきをおろし、窓もひとつ残らずしめてしまいました。
さて、その日のお昼を過ぎたころのことですが、娘が台所でうたた寝をしていると、誰かがたずねてきて家の戸をたたきました。目をさました娘は、母親の言いつけを思いだし、戸はあけずに「どなた?」とたずねました。すると相手は、
「お宅のおかみさんの知りあいでね、約束のものを受け取りに来たのさ。ここをあけてくれんかね」と言うのでした。けれども、娘は正直に、
「母さまなら、今日は出かけてて遅くまで戻らないわ。それにあたし、誰が来ても戸をあけちゃいけないって言われてるの」と答えました。
「わざわざたずねて来たってのに、そいつはまったく残念だ」とその人は言いました。「ところで、おまえさんはやっぱり、この家の娘なんだろうね?」
そこで娘は「ええ、そうよ。あたしはいちばん下の妹なの」とすなおに答えました。それを聞いたお客さんは、
「おまえさんが言うんなら、もちろんそのとおりなんだろうさ。いつまでもそのままでいるがいい」と言いました。「それじゃ今日はこれで失礼するが、ひとつ頼まれてくれんかね? おかみさんが帰ってきたら、森で会った男と約束したものを、いつ渡してくれるのかって聞いといてほしいんだがね」。
末の娘は、この人がむだ足を踏んでしまったことを気の毒に思って「わかったわ」とこころよく答えました。「あたし、あとでちゃんと聞いておくね」。それから、もといたところへ戻るとまた眠りこんでしまいました。
やがて夕方になると、両親が街から帰ってきました。ところが娘は、昼間うちへ来たお客さんのことを、寝ているあいだにすっかり忘れてしまっていました。そこで母親の顔を見ても、なにもたずねることはありませんでした。
ところで、街ではあいかわらず、異端者たちがひっきりなしに牢獄へ送りこまれ、きびしく取りしらべられていました。木こりは残り少ない薪をかきあつめ、次の日も街で商売をしてくることにきめました。こんどもおかみさんがいっしょに行って手伝い、末の娘はひとりで留守番をすることになりました。両親が出かけてしまうと、娘は昨日と同じように、家の戸にかんぬきをおろし、窓もみんなしめておきました。
するとお昼を過ぎたころ、またお客さんがやってきて、家の戸をたたきました。娘はやっぱり戸をあけないで「どなた?」とたずねました。すると相手は、
「昨日の娘さんだね。おかみさんはなんて答えてた?」と聞くのでした。そこで娘は、ようやく頼まれていたことを思いだし、
「あら、ごめんなさい。あたし、聞くのを忘れちゃったの」と答えました。その言葉を耳にしたお客さんは、腹を立ててちからいっぱい戸をたたいたので、家じゅうの壁という壁がぐらぐらゆれて、もう少しで倒れてくるところでした。それからこの人は、
「今回ばかりは大目に見るが、もしまた聞くのを忘れたりしたら、この家をぺちゃんこにつぶして、おまえさんの家族もみんな引き裂いてしまうからな」と言いました。
そんなわけで、やがて母親が帰ってくると、末の娘はまっさきに「今日ね、母さまの知りあいだっていう人がうちへ来たの」と言いました。「それでね、森で会った男と約束したものを、いつ渡してくれるのかって聞いてたわ」。
母親はびっくりして「こんどまたその人が来たら、聞くのを忘れたって答えるのよ」と教えました。けれども娘は、
「それがだめなの」と答えました。「その人ね、昨日も来て同じことを聞いてったの。でもあたし、そのときはほんとうに忘れちゃったのよ。だから、その人はものすごく怒ってて、もしまた聞き忘れたりしたら、このうちをぺちゃんこにつぶして、あたしたちのことを引き裂いてしまうって言ってたわ」。
それを聞いて、母親も「これはもうどうしようもない」と考えました。そこで娘を抱きしめて口づけすると、採れたばかりの野いちごをやって言いました。「それじゃあね、その人にはこう答えるんだよ。どうぞ約束のものをお取りください、ってね」。
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著者:結社異譚語り | |||
2009年 | 9月 | 21日 | ページ公開 |
2011年 | 9月 | 4日 | 最終更新 |